来る者拒まず、去る者追わず
わたしの知る黄瀬涼太とはこんな人だった。知るといってもたかがクラスメイト。まともな会話など一度きりとてしたことはない。風の噂で聞くだけで真実はわからない。まあ本当なんだろうけど。事実彼がキスだったりそれ以上のことだったりをしているのを不本意ながら何度も友達が見ている、らしい。しかも毎回女の子が違うらしいのだから、やはりそういうことなのだろう。いつか刺されそうな彼ではあるが、これもイケメンプレーボーイだから許されているのだ。容姿というのは非常に大事である。
ここまで言って、わたしは黄瀬くんが苦手だ。あの笑顔が怖い。ニコニコ笑っているように見えて瞳は決して笑っていない。あの、冷めた目。
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中庭の木陰での読書は気持ちがいい。静かで時間を忘れられる。そうしていたら何時の間にか寝ていたようで、気がついたら夜もいいとこだった。校舎の明かりも消えており、真っ暗な中庭。そこでひとつだけ光を放っている場所、あそこは体育館だ。バスケ部はこんな時間まで練習しているのだろうか。しかし、興味本位で近づいてみたものの、部活をやっているような気配はなかった。開いている扉のほうに近づくと、微かにダムダムとボールの音がする。そっと覗いてみると、そこにいたのはあの黄瀬くんだった。
(うん。かっこいい、ね)
ボール籠を脇において、ただひたすらシュートをうっていた。あんな顔もできるんだ。黄瀬くんはゴールしか見ていなかった。ただ一点、それだけを。
教室の外でみる黄瀬くんは初めてだった。こういう一面があるからモテるのだろう。ただ容姿がいいから、モデルだから、それだけではなかったようだ。バスケをしている黄瀬くんは確かにかっこよくて、惹きつけられる。
「何見てるんスか」
「あっ‥‥」
「覗きなんて悪趣味ッスよー」
前言撤回。思っていた通りの人間だ。
「わたしには猫被らないんだ」
「バレてる時点で被ってるなんて言わないから」
「それで気づかない人達馬鹿にしてるの」
「そうッスね」
にこり、と作った笑顔はやはり真実笑ってはいない。
「その顔、嫌い」
「じゃあどんな俺なら?」
「‥バスケやってるとき」
「もしかして、俺に惚れ「それはない」そうッスよねー」
やはり苦手だ。黄瀬涼太。
「でも、」
「‥?」
「俺は君みたいな人、興味ある」
噛み付くように奪われた唇。離れたくてもスポーツマンの腕に押さえつけられてそれは叶わなかった。最終手段だ、わたしはほんとに噛み付いてやった。
「ってぇ‥‥」
「わたしじゃ黄瀬くんのこと楽しませてあげられないからさ、諦めてよ」
「もともと誰とも楽しくなんかないんスけどね‥でも
君は楽しいッスよ?
」
だから逃がさない、とでも言うようななんとも酷い笑顔だった。
「飽きるまで、でしょう?」
残念ながら御免である。二度とこんな人と関わりたくない。
120703