「阿部くんって野球部だったんだぁ!すごーい!」

野球部だったからって、何がすごいんだ。ただ野球やってたならその辺にも野球部出身者なんているだろう。ただそれだけですごいだなんて、薄っぺらい。


「あれ、飲んでる?」
「え?‥ああ、わたし飲めないんだ」

「阿部くん、飲んでる?」
「俺飲まないから」


隆也は今も野球続けてるんだから。飲まないよ。結局野球なんて付加価値このギャルにとってはなんの興味もなくて、ただの会話のネタにしかならないのだろう。


「顔色悪いけど平気?」
「うん、大丈夫だよ。平気」


隣に座ってきたチャラ男をあしらいながら、早く戻って来いとトイレに行ったできたばかりの友達の帰りをねがった。



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隆也とわたしが知り合ったのは中学生の時だった。同じ中学から同じ高校に進学、一緒に野球部に入り、好きになるのは極々自然であり、付き合うのも夢のようでありながらもやはり自然であった。小さい喧嘩を挟みながら、理系の私たちは県内の同じ大学、同じ学部に合格し、なんとクラスまで一週間だった日にはさすがに爆笑だった。そんな私たちではあったが、とりあえずはお互い同性の友達を作ろうと、入学オリエンテーション後の交流会と言う名の飲み会にバラバラで参加したのだが。


「‥隆也モテモテじゃん」
「ん?どうしたの?」
「なんでもないよ」


独り言が漏れていたようだ。未だ隣に居座りひとりでべらべらと話すチャラ男を無視して、斜め向かいのテーブル席にいる隆也とギャルを観察していた。


「阿部くん野球かー、似合うね!絶対かっこいいよ!」
「ん」


ただありきたりな言葉で褒めちぎる彼女に腹が立つ。何を見て、隆也をかっこいいなんていうの。隆也が汗かいて土にまみれてボールを追って、苦しんで、泣いて、笑った3年間を知らないくせに。軽々しく言わないでよ。何も知らないくせに。


「なあ、ほんと大丈夫?ちょっと外に出て風当たりに行こう」
「いいよ、大丈夫だって」
「遠慮しないで、ほら!」
「ちょ、ちょっと離してよ!」


チャラ男に強引に腕を引かれ、席を立たされた。流石に大学生男子の力には叶わない、しかしなんとしても2人きりは避けたい。そもそもこんな男タイプじゃないし!


「離せよ」


引っ張られていた腕を、もう一つの腕に掴まれた。


「離せよ」
「隆也‥」
「な、なんだよ!別に気使って外行こうと‥」
「こいつが気分わりぃとしたらテメェのせいだよ。おい、帰るぞ」
「えっちょっと!」


気がついたらうるさかった周りはみんなわたし達のほうを見ている。隆也はわたしの席まで戻って鞄を持ち、視線を一身に浴びながら外に連れ出した。出る瞬間、ちらっとうしろを振り返ってみた。ギャルとチャラ男がわたしのほうを睨んでいた。ざまあみろ。





「ったく気抜くんじゃねえよ」
「隆也もでしょ!あんなギャルに‥まあへらへらはしてなかったけど」
「たりめーだろ」
「ねえ‥あのクラス、居辛くなっちゃったね」
「別に大丈夫だろ。わりーのはあいつらなんだから。それに俺いるし」
「えっと‥うん、そうですね‥」


さらっとそういう隆也にいちいち照れてしまう。なんでこう恥ずかしいことを簡単に言うのだろう。わたしを赤面させて楽しいのか。否、そうなのだろう。現に隆也はわたしの顔を覗き込み、満足そうににやにやしている。ムカつく。


「うるさい!ばか也!」
「んだよ!いい加減慣れろよ!何年一緒いんだ!」
「慣れないものは慣れないの!」


昔はぶっきらぼうで不器用な一つだったのに、いつからこんなことを言える人になったのだろう。わたし以外にいってる人がいたり、して


「そんな顔すんじゃねぇよ」
「‥してた?」
「してるよ。心配しなくてもおまえだけだから」
「ちょっ、ここはだめっ‥」


言ったところで遅かった。道端で口を隆也のそれでふさがれ、抱きしめられる。だめ、なんていっても本当は嬉しくて。わたしはそのまま隆也に体を委ねた。





120703
未成年の飲酒は法律で禁止されています

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