淡白な彼女から珍しくメールが来たから酷く驚いた。「今から行っていい?」こんな真夜中に何を考えているんだ、メールをもらってすぐに俺はバイクを走らせた。普段は自分の弱味とか不安とか、そういった類のものを人に見せない彼女がこんなメールを送ってくるということは、よほどのことがあったのだろう。バイクを走らせて10分で彼女のマンションに辿り着く。かばんから合鍵を取り出しオートロックを開ける。家の鍵も開け、よう、と声をかけるとソファに横たわっていた彼女はぽかんとした顔を見せた。


「え」
「どうしたんだよ」
「それは慎吾でしょ」
「おまえからあんなメールもらったら飛んでくるだろ」


ソファに腰かけると、横たわっていた彼女は起き上がりもぞもぞと不自然に動いたあと、静かに俺の腰のあたりに抱きついた。きつく抱きしめられたその腕から彼女の不安が感じ取れた。表情は見えなかった。そっと、彼女の頭を撫でる。


「‥ん」
「あんまり考えすぎんなよ」
「‥ありがとう」


よしよし、と子どもをあやすように頭を撫でる。しばらくすると彼女は体勢を変え、正面から抱きつき、胸板に顔を押し付けて来た。こんなことは今までなかったのでかなり焦る。何があったのだろう。


「泣くなよ」
「‥泣いてない」
「泣いていいんだぞ」
「泣いてないし」


弱味を見せない彼女の精一杯の強がり、泣き顔なんて初めてだった。正確には見てはいないが。胸元の部分が濡れているから多分泣いている。俺はまたよしよしと背中を撫でてやった。


「‥嫌われたかも、しれない」
「誰に?」
「と、もだち」
「考えすぎじゃないのか?気になるんだったらちゃんと正面からぶつかって聞こうな」
「‥こわい」


彼女から溢れる弱い言葉の数々。よほど参っているのだろう。本当はこんな姿、見せたくないのだろう。でも、
きっと自分だけじゃ抱えきれなくなったのだろう。そして俺を頼ってくれたことがすごく嬉しかった。彼女の性格上俺のほうが好きなんじゃないかと思うことがよくあったけど、それは心配なさそうだ。と、彼女には申し訳ないが少し違うことを考える。


「慎吾」
「ん?」
「‥ごめんね。ありがとう」
「いいよ。こうやって俺を頼ってくれるの嬉しいから」
「ありがとう。‥もうちょっと」
「いくらでもドーゾ。彼女なんだから」
「‥うん」


悩む彼女を、不謹慎だが愛しいと思った。そしてこんな弱々しくなるまで彼女を悩ませる知らない友達に馬鹿みたいな嫉妬をした。それでも、友達のことで頭がいっぱいな彼女の中に、少しでも俺がいたことがとてつもなく嬉しかった。




120629
tnx誰花


「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -