阿部に彼女。野球が恋人のようなやつが可笑しいと思ったのは俺だけじゃないだろう。実際あいつが言うまでちっとも気づかなかった。そんな素振りはこれっぽっちもなかったのだから。
なんで阿部なんだろう。なんで、なんで阿部だったんだろう。ずっと見てきたのは俺なのに。阿部はあいつのどこを見ていたんだろう。阿部はあいつの何を知っているんだろう。俺なら彼女を泣かせたりしないのに。こんな辛そうな顔にはさせないのに。あいつを笑顔にするのも、悲しませるのも阿部なんだ。

「阿部は本当にわたしのこと好きなのかな」
「‥知らねえ」
「それでもね、わたしを隣に置いてくれる阿部は優しいよ」
「隣になんていねえだろ」
「いいの、肩書きだけで十分だから」

そんなの、どこが恋人だと言うんだ。名前だけの、こいつが独りで泣いてるのに見向き気付こうともしないで平然と野球に打ち込む阿部のどこが彼氏だというんだ。それでもいいと満足するこいつも、それに納得できないままむしゃくしゃする俺も、何もかもめちゃくちゃで気持ち悪い。

「阿部はね、付き合ってって言った時、いいけどって言ったの。野球しか見えないけど、それでもいいのかって。阿部は最初に言ったんだよ。わたしはそれでよかったから」
「‥でも、」
「阿部は野球大好きだから、わたしはどんなに頑張ったってきっと二番にしかならないの。だけどわたしはそんな阿部が好きだから」

意味わかんねぇ。野球しか見てない阿部も、それを許すこいつも、結局何もできない自分も、全部。奪ってやりたいのに、阿部の前からこいつを掻っ攫ってやりたいのに、それでも半分泣きそうに、半分幸せそうな表情で話すこいつを見るといつもその決断を留まらせる。

「‥壊したっていいだろ。もっと一緒にいたいって、言えばいいだろ。そんなの恋人じゃねえ。認めろよ!」
「っ‥‥うるさいっ‥!」
「泣いてばっかで‥なんで‥なんで阿部がいいんだよ‥!なんで‥俺じゃだめなんだよ‥」

我慢の限界だ。俺なら片時も忘れることなく愛してあげるのに。望むことなら何だってする、絶対に幸せにしてやるのに。なんで俺じゃ駄目なんだ。

「泉が‥わたしじゃなきゃだめなのと一緒、だよ」

そうなのかもしれない。結局、こいつはそんな阿部が好きで、俺はそんなこいつが好きなんだ。
叶わない、届かない。それでも日々愛は降り積もって溶けることを知らない。

日が沈んだ、6月の夜のことだった。





120627
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