負担にならないように、煩わしいって思われないように、ただそれだけを考えていた。
「おまえ、それでいいって思ってるの?」
「うん。別れて本当に離れ離れになるよりずっといいじゃない」
これから先いつになっても、きっとわたしは隆也の中でよくて二番目か三番目なんだろう。いつだって隆也の頭の中は野球で一杯で、本当ならわたしなんか入る隙間もない。それでも好きなんだから、わたしが我慢するしかないじゃない。会えないのは当たり前、メールも電話もできなくて、でもやっぱり好きなんだ。隆也のことを考えたら胸が苦しくなって、張り裂けそうになって、我慢しなきゃって思う。邪魔しちゃだめだって、ただ黙って見ていようって思う。
「それじゃあさ、もし阿部が別れてって言ったらおまえは別れるわけ」
「‥‥」
「その時おまえはどうすんの」
泉の言葉ひとつひとつが胸に突き刺さる。わかってる、わかってるよ。本当はこんなんじゃ駄目なんだって。こんな名ばかりの恋人なんて。でも仕方ないじゃない。好きなんだもん。隆也がもしかしたらわたしのことを好きじゃなかったとしても、本当は肩書きだけだったとしても、それでも彼女という名前に安心していたいから。これ以上先を望んだら、壊れてしまうんじゃないか。もういらないって言われたら。そしたらわたしはどうすればいいの。やっぱり前に進めない。
「‥野球だけがあればいいって言われたら、きっと‥もがくよ。何もいらないから、ただ彼女っていう肩書きのままいさせてください、って。わたしのことなんか気にかけなくていいから、わたしはそれだけでいいからって」
「おまえ、馬鹿だろ」
「でも、もし好きな人ができたって言われたら‥‥」
もし、隆也が好きな人ができたって言ったら‥‥どうしよう。もがく?それとも素直に身を引く?身を引いて、隆也の隣に居座る誰かを嘲笑うだろうか。そんなに隆也にあれこれ求めたら捨てられるよって。物分りのいい、重さのかけらもない彼女でいなきゃだめなんだって。そう嘲笑いながらひとりで泣くのだろうか。
「わかんない‥わかんないよっ‥!」
これからどうしていけばいいのか、何が正しくて何が間違っているのか。わたしはどうしたくて、阿部はどうしたいのか。何を考えているのか。何もわからない。
120627