なーんにもない。
だーれもいない。

ぼうっとして窓の外を見てるとしとしと雨が降っていた。カーテンを開けて耳を澄まさないと聞こえないくらいの雨だが、わたしの心を余計鬱々とさせる。
深夜は家の前の道路も人通り少なくとても静かだ。そんな簡素な景色を見てるのもいい加減寒くなってきたので窓を閉めた。


ここ最近は毎日毎日暇で仕方がなかったのだ。学校も春休み、バイトもしてない、友達もみんな地元に帰ってしまった。大学生ってつまんない。
携帯を開くと愛しい彼の写真が目に入る。今は友達と海外旅行中でSNS系に一切手を出してないわたしは連絡が取れなかった。わざわざ旅行してるとわかってて連絡するようなことはしないけど。ああ、これ以上見ていると胸が苦しくなる。わたしには彼しかいなかったんだなあ、と再確認して自己嫌悪。でも今更人付き合いがうまくなるなんて思えないし。わたしもし捨てられたらどうなるんだろ。そもそもわたしが彼なんかの隣にいること自体ありえないんだけど。こんなわたしが。海外で金髪美女と浮気してたらどうしよう。まあ、でも似合いそうだよね。わたしよりもずっと。





──ピンポーン

その時アパートの部屋のチャイムが鳴った。こんな時間に、誰。怖い。でももしかしたら知り合いかもしれない。そうだとしたらこんな時間に非常識だと罵ってやる。ほんとはすごくすごく嬉しいけどそれを隠して。

恐る恐る玄関に近づき覗き穴から外の様子を覗こうとしたら途端に携帯の着信が鳴りビクリと飛び上がってしまった。あまりにも驚きすぎて誰からの着信かもわからずすぐに出る。

「も、もしも「寒いから早く入れてよ」

え?この声は?
すぐに玄関の鍵を開けて扉を開くとそこには


「せいいちっ!」
「遅いよ」

精市がぎゅっとわたしを抱きしめる。冷たいけど暖かい。わずかに雨に濡れてることに気づいて直ぐさま家の中に引き入れた。

「なんでっ」
「ふふ。何でだと思う?」
「わかんない!なんで!」
「予想以上だなあ…いや、こっちの話なんだけど。実はさ、ほんとは帰国する日一昨日だったんだ」
「え?」
「一週間も俺がいなかったらお前淋しくて淋しくてしょうがなくなるんじゃないかと思ってさ」
「…意味わかんない」
「俺しかいないってわからせるためだよ。予定より長く教えたんだ。想像以上ですごく可愛いから満足さ」

そう言ってまたわたしを抱きしめた。うそ、意味わかんない。全然わかんない。精市の意地悪。それしか思い浮かばないよ、ばか。

「いじわる」
「ごめんね?」
「そんなことしなくてもわたしには精市しかいないよ。もうやらないでよねばか」
「はいはい」
「淋しかったんだから」

精市に負けないくらい強く抱きしめた。久しぶりに香る精市のにおい。安心したら涙が出てきた。こんなに淋しかったのに。精市のばか。ほんとに好き。

「さっきは早く入れろって言ったけどこんな時間にホイホイドアあけちゃだめだからね」
「精市しか開けないもん」
「…そんなに淋しかったの?」
「精市が思ってるよりずっと淋しかったんだから!ばか!」
「…ちょっと反省するよ」

気がつくとわたしは所謂お姫様抱っこの形で抱えられていた。あとは当たり前のようにベッドにダイブする。



「たっぷり可愛がらせてね、お姫様」
「だいすき」


わたしにはたったひとりしかいないけど、わたしにはそのたったひとりがいればいい。もしいなくなったらきっとわたしは死んじゃうね。





120223
企画夜とワルツ様に提出

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