「芥川くん」



まるで雲のような人だと思った。寝てる時も起きている時もいつもふわふわとして、にこにこ笑ってるけど目に光りがないような気がした。どこか浮世離れした、そんな印象を漠然と抱いていた。ただなんとなく、芥川くんの“外”から眺めているだけだったのに、最近になって芥川くんと交流を持つようになった今も、それはかわらない。芥川くんは雲のような人だ。



「ねえ、膝枕してくれる?」
「いいよ」
「柔らかくて気持ちEーね」
「太ってるっていいたいの?」
「違うCー。女の子の柔らかさが好き」

初夏の昼下がり、屋上。心地好い風が吹いて過ごしやすい季節。わたしと芥川くんは屋上でぼーっとしていた。正確には、わたしがサボっているところに芥川くんが来たのだけれど。
先程の会話からものの1秒しか経っていないというのに、芥川くんはすやすやと可愛らしい寝息を吐きながら寝ていた。柔らかいふわふわの金髪が風に揺れて、そっと撫でてみる。一瞬ムッとしたような顔をされた気がしてすぐに手を離すと、にこりと笑ったように見えた。

触られるの、嫌なのかな。

わたし以外の女の子ともこうした奇妙な関係を持っているのを知っている。決して誰のものにもならないのだ。近くまで来てつかまえようとしても、するすると指の間からすり抜けていく、雲のような何にも捕われないひと。きっと、抱いてと言えば抱いてくれるだろうし、キスもしてくれるだろう。でも、そうしたら一生わたしと芥川くんは交わらない気がする。一定の距離を保った、平行線。


「芥川くん」
「‥んー」
「あのね、」
「ちゅーしていい?」
「‥いいよ」

芥川くんのいつものにこにことした笑顔が近づいてきて、思わず目を閉じる。近くで見る芥川くんの目は怖かった。一体どこを見て、何を見てるの。
しかし、いつまでたっても唇に予想した感触はなかった。恐る恐る目を開けると、芥川くんはもう立ち上がっていて、ズボンのお尻のところについた砂を払っていた。

「芥川くん」
「眠くなくなっちゃったから帰るねー」

あーあ。嫌われちゃったかな。先程芥川くんがいた場所にゴロンと寝転がる。でもいいのだ、どうせわたしと芥川くんは初めから交わる予定などなかったのだから。





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