「で、何かな。こんなとこに呼び出して」
わかってるくせに、と言いたいのをグッと堪え精市の顔を見ると、むかつくくらいの綺麗な笑顔だった。すう、はあ、と大きく呼吸をして精市と視線をぶつける。目が、笑ってなかった。
「今朝の、ことなんだけど」
「ああ、そのこと」
「‥‥八つ当たり、しちゃったから。ごめんなさい」
精市の表情は変わらない。相変わらずの冷めた笑顔だ。
「ほんとごめ」
「全く俺に八つ当たりなんて相当どうかしてるよね」
「‥‥」
全くもってその通りなのだが(ほんとはそんなの可笑しいが私と精市の関係においては当たり前)今日はなぜかイラッとしてしまった。今朝の名残だろうか。私の口は考えるよりも先に動いた。
「でもね、精市のそういう態度もいけない、と、思うの」
「‥‥」
「たまに私ってほんとに彼女なのかなって、思うとき、あるし‥‥も、もしかしたら優しい人とか現れたら心変わりしちゃうかも」
そこまで言って改めて精市の顔を見る。笑ってない。
「せい、いち」
「そうか、それは別れたいってことか」
「ちがっ」
「なら俺は他の子と付き合ってもいいってことだよね。そんなに咲が俺のこと嫌いなら例えば俺が他の子と咲の前でイチャイチャしてたとしてももちろん平気に決まってるだろうし」
精市は冷え切った目で私を見た。嫌だ、そんなの嫌。
「嫌、だよ。そんなの絶対。私は‥‥」
「ほらね、咲は俺から離れられないんだから。ったく馬鹿だなほんと」
その瞬間私は精市に思いっきり抱き着いた。精市の顔がまた笑顔に戻ったからだ。
100606