2年生になって、幸村くんと同じクラスになって、1週間が過ぎた。相変わらず幸村くんはわたしにだけ辛辣な言葉を吐く。こんなの幸村くんじゃない、偽物だ!という考えはとっくのとうに捨てた。これが幸村精市なのだ。
クラスの子に何度も何度も幸村くんのことを話そうとしたけれど、いつもその度に幸村くんが「え?俺がどうしたの?」と神出鬼没に現れる。しかもその顔はやはりニコニコしているのだが、目は笑っていない。話したら殺すよ?とでも言わんばかりの眼力で。しかしそれに周りの女子は気づかないのだ。騙されている、みんな気づいてくれ。しかしこれをわたしが伝えたところで誰も信じないだろう。昔のわたしだって多分信じない。自分の目で見た限りは。


その日は、一年時同じクラスだった柳がクラスを訪れた時だった。

「精市」
「「柳」」
「ああ、咲も精市と同じクラスだったな。まさか隣だとは思っていなかったが」
「柳なんの用だい?」
「むしろわたしは幸村くんと柳の関係を知りたいんだけど」
「俺も柳もテニス部だよ。1年もいて知らなかったの?」

ちくりと嫌みも忘れない幸村くん。

「それで、用件は何?」
「ああ、英和辞書があれば借りたいのだが」
「今日は持ってきてないかな、英語ないからさ」
「そうか、わざわざすまない」
「あ、わたし持ってるよ!」

わたしは席を立ち後ろにある自分のロッカーから英和辞書を取り出した。ビバ置き勉、どうせわたし予習復習なんてしないからね。

「はい、これ」
「すまない、借りるぞ」
「咲はなんでも置きっぱなしだからね。だから馬鹿なんだよ」
「…」
「精市、あまりこいつをいじめるな」
「柳神!」
「なんだって?」
「…すいません幸村様」

その後二言三言喋った後に柳は自分の教室へと帰って行った。

「柳が忘れ物なんて珍しいね。一年の頃そんなとこ見たことなかったのに」
「鍵つきでもないのに全部ロッカーに入れてたらそのうち何か盗まれるよ」
「平気だよ〜。わたしのとる人なんていないって」
「そういう危機感が薄ところが馬鹿って言われるんだよ」
「…ごめん」
「別に」

それっきり幸村くんは視線を合わせてくれなかった。
幸村くんが毒舌なのはいつものことだ。なのに、ちらりと幸村くんの顔を覗くとすごく辛そうな顔をしていて、なぜだかわたしはその表情が頭から離れなかった。





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