放課後、雷蔵達と駿河に見送られ、俺は裏庭にある飼育小屋に向かっていた。今まで2回ぐらいしか来たことないけど相変わらずくせえな。しかしそんなことは言ってられない。せっかく駿河とハチがくれた大切なチャンスなんだ。



「よし、やるか」



早速隣の小屋にある長靴に履き替え、ゴム手袋を装着する。先にやってよう。あくまで自然に、だ。

飼育小屋に入り箒を手にしたその時。



「ごめんなさい遅れて!……鉢屋くん?」



ついに夢が叶った。彼女と運命の再会。







「そっか、竹谷くんの変わりに来たんだ」

「あ、あぁ。篠崎さんは?」



篠崎さんは俺の姿を見かけると、直ぐに靴を履き替え飼育小屋の中に入ってきた。箒を手にし、まず言ったことは、私がやるからいいよ?だった。



「鉢屋くん委員じゃないよね?私変わりにやるから大丈夫だよ」



そんな優しいことを言ってくれて、挙げ句可愛いスマイル付きなもんだから俺の心臓は倍速で高鳴り始めた。なんだこれ。今までじゃ味わえなかった感覚。心臓はバクバクうるさいしキュウって締まるし。



「いや、俺頼まれたからやるよ」

「誰に?」



そして冒頭に戻るわけだ。話ながらも掃除は進んでいる。テキパキと俺に指示しながら掃除をする篠崎さん。嫌な顔1つせず篠崎さん、改めていい子なんだと言うことがわかった。



「そう言う篠崎さんは?」

「私もね、さっき麻衣…駿河麻衣ちゃんに変わってって言われたの。なんかお腹痛くなったって」



これが、駿河の考えたシナリオだった。至ってシンプルな作戦。ハチと駿河に飼育委員会の掃除当番を代わってもらう、たったこれだけ。ハチは俺と仲がいいし、とても自然な作戦ってわけだ。



「っていうか鉢屋くん何で私の名前知ってるの?」

「ん、あ、駿河から代わってもらうの聞いたからさ。そう言う篠崎さんも俺の名前知ってるじゃん」

「だって鉢屋くん有名だもん」



そしてまたにっこりスマイル。あぁ…有名…それはどういう意味なんだろう。きっと悪い意味なんだろうな。良くも悪くも俺の名前は有名だからな。自覚はある。そうだとしたら彼女の中での俺のイメージは最悪だろう。さようなら俺の初恋。



「学年で一番頭が良いってみんな知ってるよ」



良い意味だった…!奇跡だ、奇跡に違いない。何のご褒美だ。明日雪が降るかもしれない。どっかの女にぶっ刺されるかもしれない。それでもいい……ってよくないけどそれぐらい嬉しい。
俺がほわっとしていると更に、篠崎さんはすごいね、と言ってくれた。何だかもうこのまま昇天してしまいそうな気分である。頬の筋肉は垂れ下がっていないだろうか。



「あ、そうだ。えっと、昨日さ、」

「そういえば昨日の腫れ、もう引いてるみだいだね。よかった」



俺が言う前に先に言われてしまった。まだお礼も言ってないのに。



「ありがとう。助かった」

「どういたしまして」

「何で、えっと…わざわざ?」

「たまたま鉢屋くん見かけて、ほっぺたおさえてたからどうしたのかなって思って。そしたら赤くなってるの見えたから」



何て優しい子なんだ…!俺の周りにはいなかったタイプだ。というかこんな子見たことない。嬉しいし、人間の優しさになんだか胸がジーンとしてきた。なんか涙出そう。



「ちゃんと洗って返すな、ハンカチ」

「え、いいよ別に!たいしたものじゃないし」

「いや、お礼させてよ!」

「お礼なんて…掃除手伝ってくれてるだけで充分なのに」

「これは別だろ?ハチの代わりだからさ」



何とかしてお礼がしたい。お礼にかこつけてデートとか…できねえかな。それにしてもハンカチなんていいもんゲットしたよなぁ。次会う口実できてよかった。





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