俺は生まれてこの方まともな恋愛をしたことがない。思春期には既に自分がモテることはわかっていたし、それで女に困ることはなかったから。興味本位で作った彼女から始まり、ナンパ逆ナンで捕まえた顔も覚えられないぐらいの数のセフレ。考えてみたら多分初恋はまだだ。こんな自分でもいつかは真剣に恋愛をしてみたいとは思う。が、そんな俺は想像もつかないし気持ちが悪い。そもそも女を心の底から好きななれるかも疑問だし、愛してるなんて砂でも吐きそうな言葉を言えそうにもない。結果、今の所俺は生涯独身の確率がとても高いのだ。







「いってぇ…」



あの女思いっきしひっぱたきやがって。俺は腫れているであろう左頬をさすった。

ことの次第はこうだ。昼にメールを送ってきた女と家で一通り終えた後、俺の携帯が光った。その時たまたまそいつの近くに携帯が置いてあり画面を見られたのだ。画面には隣のクラスの女子名前が。そいつはそれを見て怒り狂った。この女は誰、私以外の女とメールなんかしないでと俺を問い詰めた。正直おいおいという感じだ。遊び慣れた女だと思ってたのに本気だったのかよ。ただの友達だと言ってもよかったものの面倒くさい女はウザかったので正直に吐いてやったのだが、その瞬間とびきりのビンタが俺の左頬を襲った。こういう経験上ビンタはある意味され慣れているし、想定の範囲内ではあったがそりゃあ痛い。そして今、まだヒリヒリする頬をおさえながら駅前のベンチに座っている。ああさみぃ。


そしてそろそろ帰ろうかと思ったその時、不意に左後ろのほうから声がした。



「大丈夫ですか?」



誰、知らない声だ。覚え切れてない女の1人かと思い面倒くさ気に振り返る。残念だが今はそんな気分じゃない。



「なんだ……………って」



なんと、そこに立っていたのは全く知らない女だった。



「えっと、ほっぺたおさえてるから大丈夫かなと思って」



そう言われて濡れたハンカチを差し出される。淡いピンク色に桜の刺繍がされていてとても可愛い。



「冷やしたらよくなると思いますよ」

「ちょっと、」

「お大事に」



そしてあっという間に彼女は去っていく。ちょっと待て。あまりも急な出来事すぎていまいち整理ができていない。どういうことだ。まず、彼女は俺の学校の制服を着ていた。つまりは同じ学校。だがあんな可愛い子見かけたことがない。一応学校で可愛い女の子は学年関わらず全員チェックをしたはずだ。まさかのノーマーク。いったい何年何組のどこの誰。そしてあのハンカチを差し出してきたときの表情。今まで関わってきた女から見たことがない表情だった。下心なんかまるで無くて、ただの親切心からやってくれたのか。というかハンカチを濡らしてきてくれたということはいつから見ていたのだろう。

しかしそんなことはどうでもいい。今自分では想像もできないことが起こっている。顔がビンタとは別な意味で熱を増してきているのだ。驚くほど脳は冷静で、その答えを簡単に弾き出す。まさか、こんなタイミングで。


つまるところ、俺は彼女に恋をしてしまったのだ。





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テーマ「人外ファンタジー」
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