「三郎」
「……」
「おーい三郎」
「……」
「あ、篠崎さ「何っどこだハチ?!」
「……ごめん嘘…」
「タケヤコロス」
「待って三郎!兵助も豆腐食べてないで手伝ってよ!」
三郎が今にもハチに飛び掛かりそうなところを雷蔵が必死に止めているのを、俺は弁当を食べながら眺めていた。
しばらくすると三郎は渋々と椅子に座り、ハチと雷蔵はホッと溜息をついた。ここ最近の三郎は恋に目覚めたとかなんとかで騒がしい。今もこんなことが起きたのは三郎がニヤニヤしながら頬杖をついていてハチの三郎を呼ぶ声が全く聞こえていなかったからだ。
「次やったらまじで殺す」
「わり〜ってほんと…でも三郎が返事しないのがいけないんだからな!」
「返事?」
「三郎って何回も呼んだだろ!」
「まじ?」
「ニヤニヤしてほかのこと考えてたから聞こえてなかったんだよ」
「……ごめん雷蔵」
「呼んだの俺!」
全く、三郎が色ボケなんてついこの間までは想像がつかなかった。それなのに今は気持ち悪いくらいニヤニヤしていると思ったら次の瞬間この世の終わりみたいな顔したり気性が激しくなっている。いい傾向といえばいい傾向なのだろうか。口には出さないけどみんな三郎のことは心配していた。毎日のように女遊びをしていたのに、ちっとも楽しそうじゃなかったから。まるで何か寂しさを埋めるように。それは何か知らないけども。
「ニヤニヤしてた理由は何なの?昨日篠崎さんの公演見に行ったんだよね」
「そーなんだよ!篠崎さんスゲー綺麗で!…じゃなくて公演もすごいよかったんだけどさ、終わったあとメールしたんだよ」
「アドレスいつ聞いたんだ?!」
「終わった後に駿河に聞いたんだよ、そしたらさ〜返ってきたんだよ〜」
「「それが理由か」」
三郎は満面の笑みを浮かべながら昨日のことを語りはじめた。その笑顔がなんて気持ち悪いこと。三郎が好きだった子これ見たら引くんじゃないか?
「兵助聞いてる?」
「聞いてるよ」
「じゃあ俺が何言ってたか言ってみろよ!」
そんなの、
「篠崎さんが好きで好きで仕方ないって話だろ?」
それ以外な何があるのか。と思っていたらいきなり三郎が付き合わせていた机から乗り出してすごい勢いで俺に抱き着いてきた。
「そうなんだよ!わかってるなー兵助!」
当たり前だろ、俺達は親友なんだから。みんな、三郎の幸せを祈ってる。だから頑張れ、三郎。
110222