今日、俺は朝からそわそわしていた。目がやたらとキョロキョロと動き、落ち着きがなかった、らしい。雷蔵曰く。しかし、昨日篠崎さんが来てくれると知ってからは落ち着いてなんかいられない。篠崎さんが、俺に、会いに来る。大事な部分はあえて無視している。重要なのは、篠崎さんが俺に会いに来ること!
「だからチケット渡しに来るだけなんだろ?」
「俺に会いに来ることには変わりない」
幸せ者、と兵助がぼそりと呟いていたような気がした、が気にしない。時間は既に昼。来るとしたらこの時間なはずだ。
「寝癖とかついてないか?」
「「ついてるついてる」」
「もうハチも駿河さんもやめなよ。大丈夫だよ三郎」
ハチと駿河はこの状況を楽しみすぎな気がする。ムカつくけど協力してもらった身、何も言えない。あぁやっぱり雷蔵はいい奴だ。俺の味方はもう雷蔵しかいない。ハチと駿河は面白がってやがるし、兵助に至っては興味なし。今も弁当に入ってる豆腐を愛おしそうに見つめている。つうか弁当に豆腐って何。
「あ、鉢屋くん」
「っ篠崎さん!」
ぺちゃくちゃと喋っていたその時、綺麗な声が耳に響いた。名前を呼ばれて後ろを振り向く。そこには、勿論篠崎さんの姿が。
「はい、これ次の公演のチケット」
「あ、ありがとう」
「頑張るから楽しみにしててね!」
「あ、ああ」
「それじゃあ私次移動教室だから行くね。またね!」
…………この間わずか10秒。
「あはははははっ!は、鉢屋がどもってるブハッ!」
「三郎緊張しすぎだろ…!やべえ腹いてえ…!」
駿河とハチは一旦死んでこい。雷蔵は……苦笑いだ。フォローしてくれないのか…いや、しょうがないか。だってわずか10秒。
「もう一生話せなかったらどうしよう…」
「そんなことないって、また話せるよ。ね、ハチ」
「あははっ…!無理じゃ」
「ハチ?」
「大丈夫だと思います」
雷蔵の笑顔が一瞬歪んだのは気のせいじゃない気がする……気のせいですね、そうですね。
しかし励ましてはくれたが、もう話すきっかけがなくなってしまったのは事実だ。あぁどうしよう。もう終わりなのか。
その時、一人でずっと飯を食っていた兵助が口を開いた。
「またねって言ってたんだから会えるだろ」
「兵助…!」
お前は神か!
100420