「篠崎さん」
「あ、鉢屋くん」
教室に入ると篠崎さんはすぐに見つかった。お昼ご飯は既に食べ終わったのか、1人で本を読んでいる。可愛らしい装飾のついたブックカバーのついた本を読んでいるもんだから、この子はどこから見ても女の子っぽさしか出てこないのかと思ってしまう。
「これ、ハンカチ。ほんとありがとう」
「ううん、気にしないで」
わざわざありがとう。と言う篠崎さんはいつもの笑顔を向けてくれた。何度見ても癒される笑顔だ。ったく可愛いなあほんと。
一応これで用事が終わってしまった。が、ここからが本領発揮だ。何のために徹夜したんだ俺。一週間の努力の成果見せてやる!
「そういや篠崎さんって学生オケのコンミスやってんだろ?すげーな」
「え、うそ何で知ってるの?!恥ずかしいなあ」
「今度の公演見に行くからさ」
「鉢屋くん、見に来たことある?」
「いや、今回が初めて」
よし、口は勝手に動かなかった。
「ベー○ーベンの3番のシンフォニー俺好きだし。楽しみにしてる」
「私も好きなの!バイオリンかっこいいでしょ?!弾いてて楽しいんだー!」
そう言った篠崎さんの表情はいつもと少し違った。初めて見る、笑顔。本当に、心の底から音楽が好きなんだろう。その笑顔は輝いていた。
「他にもいい曲たくさんあるし楽しみにしててね!あ、よかったらお礼にチケットあげるよ」
「え、いいって別に!お礼とか寧ろ俺が、」
「いいからいいから!私、友達でクラシック好きな人って部活にしかいないから。だから嬉しいの。明日持って行くから貰ってくれる?」
「わかった。ほんとありがと」
丁度いいタイミングで昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴った。あ、私この後移動だから行くね!と言って篠崎さんは慌ただしく教室を飛び出す。
明日ってことは、つまり教室に来てくれるってことなのか?……やべ、すっげえ嬉しい。
“友達”という言葉には少し不満が残るがしょうがない。まだまだ先はある、これからだ。
100326