はあ、と息を吐くと白く染まった。ため息しか出ない。外は明るく煌びやかに彩られたイルミネーション。そう、今日はクリスマスイブである。なのになんで、そんな日に好き好んでバイトなんてしなくてはならないのか。今日はうちでクリスマスパーティをしようってずっと前から計画してたし、店長だってわたしに彼氏がいるのはわかっているはずなのに。何が、凛ちゃんしかいない、だよ。全く、最悪だ。明日は幸男は普通に部活があって、だからわたしもバイトを入れた。彼氏持ちがクリスマスに店のために働いてあげるというのに、イブも働かせやがってあの店長め。と心の中で毒づいていると、おい、と後ろから声がした。ハッとして振り向くと、そこには眉間に皺を寄せた幸男がいて、先ほどのわたしのようにため息をついた。


「メールしただろ。見てないのか?」
「メール…?あっごめん、気づかなかった」
「いーけどよ。帰るぞ」


自然な仕草で手を取られた。今でこそこんな風に当たり前のように手をつないでいるが、昔はそれすらも一苦労で、わたしはどれだけやきもきしたことか。寒かったので体を寄せてひっついてみた。歩きにくいだろ、とは言われたが離れろとは言われなかった。許してもらえるバイト帰り、万歳。周りもたくさんのカップルがいて、みんなしあわせそうにくっついていた。わたしと幸男も、しあわせそうに見えるのかな。

イルミネーション通りを抜けて暫く歩くと、ちょうど制服を着た高校生のカップルとすれ違った。女の子は短いスカートに生足で紺のハイソックス。少し前のわたしも同じ格好をしていたはずなのに、あんなのもうできないなあ、なんて。若いっていいね。自分の足元といえばグレーの分厚いタイツにもこもこのムートンブーツである。


「ねぇ、見た?今の高校生。超寒そう。わたしもうおばさんなんだなあ。生足無理」
「俺にはお前も十分寒そうに見えるけど」
「あのねぇ、おしゃれは痩せ我慢なの!」


せっかくのクリスマスイブだもん。バイトだけどちょっとはおしゃれしたいじゃない。本当は周りのカップルに呪いをかけながら鼻水垂らして歩く予定だったけど、幸男のサプライズお迎えのおかげで無理してよかったなあと思った。寒いのはどうも苦手で冬はパンツばっかりはいていたけど、スカートはいてきてほんとによかった。強がってよかった。


「なあ」
「ん?」
「ケーキ買って帰るか」
「っうん!シャンパンも!あっでも幸男明日早いし…」
「飲み過ぎなきゃ平気だろ」


嬉しくて幸男の腕に巻きついた。ちょうど知り合いがバイトをしているコンビニの前だったので少し赤くなりながら離れろ!と言われたけれど余計に強くギュッとしてやった。近所の大好きなケーキ屋さんにまだケーキは残っているだろうか。シャンパンはどこに手に入るだろうか。もしなかったらこの前森山が持ってきてくれたワインを開けてもいいかなあ、なんてあと数時間のクリスマスイブをどう楽しもうか目一杯頭を働かせて、幸男の暖かい手をもう一度ギュッと握った。






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テーマ「人外ファンタジー」
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