放課後の部活が終わった後、部室で大会本部に出す資料を纏めていたら随分と時間が経っていた。この時間じゃあみんなの自主練もとっくに終わって帰っているだろう。久しぶりにひとりかあ。部室を出ると、体育館の明かりがまだついていた。男子バスケ部が専用で使っているため、知らない人が残っているとはまだ考えられない。誰だろう、と考えつつもなんとなく彼じゃないかと期待をしている。


「…もしもーし」


ガラガラと体育館の思い扉を引くと、ちょうど目に入ったのはスリーポイントラインから綺麗な放物線を描き、ゴールに吸い込まれていったバスケットボール。そして、それを放ったのは。


「終わったのか」
「幸男こそ。終わった?」
「ああ、ちょうど今」


本当はわたしのこと待っていてくれたんでしょう?とは言わない。分かっているし、わざわざそれを口に出したところで照れながら否定されるのは目に見えている。そんな幸男も好きだけれど、今はその不器用な優しさをそのまま受け止める。
転がっていたボールを拾い、一緒に片付けをした。着替えてくる、と言って部室に向かう幸男の背中を見送り、手元にひとつだけ残ったボールを先ほど幸男が放ったポジションに立ってそれを投げた。両手で目一杯、体も全身使って放ったそれはリングにかすることもなくフロアに転がった。男の子ってこれをワンハンドで投げるんだもん。すごいなあ。それに加えて、血の滲むような努力。それがあってやっと、あのリングにボールが入るのだろう。
体育館の電気を消した。


「ありがとうございました!」


そうして再び扉を閉めた。半日経たずに再び開けるその扉を、あと何回、この体育館であとどれくらいバスケができるのだろうと、月の光が差しこみ青白く光るフロアを見ながらふと、思った。


部室の前で幸男を待っていると、暫くして出てきたので一緒に帰った。と言ってもわたしは駅から電車、幸男は徒歩通学のため、時間にしたら長くても僅か10分である。しかも普段はみんなで帰ることが多いため、2人でいる時間は、恋人としていれる時間は随分と少ない。それでもわたしに不満はない。今は、残り時間が不確定な仲間との時間を大切にしたい、それは幸男も一緒だろう。


「久しぶりだね、こうやって2人になるの」
「そうだな。…黄瀬が入ってからは何かと騒がしいし」
「黄瀬、最近変わったよね。いい意味で」
「ああ」


2人でいても結局は部活の話。色気がないと周りにはよく言われるが、わたしはそれが楽しい。何より幸男が楽しそうに生き生きと話すのだから。わたしも同じように楽しくなるのは当たり前だ。


「じゃあ、気をつけて帰れよ。凛」
「うん、また明日ね」


わたしが改札を潜って見えなくなるまでずっと幸男は待ってくれている。振り返って手を振れば、早く行けという顔をされた。またね、と口パクで伝えると同じように返された。幸せだ。
ホームに出て夜空を見上げた。今幸男も同じ空を見て何を思っているのかな。


“月が綺麗だね”


そうメールを送ってみた。この意味に幸男は気づくだろうか。今日の古文の授業、幸男が寝ていなかったことだけを祈ろう。





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