お昼ごはんを食べたあとはせっかくなので買い物に付き合ってもらった。こういうのが幸男は一番苦手だというのは知ってる。居心地悪そうにどこを見ればいいのか困っているのも知ってる。


「ねえ、これとこれどっちがいいと思う?」
「あー…どっちでもいいんじゃねえの」


楽しすぎる。

面白くなって試着してみるから待っててーなんていうとギョッとして何かを言いたそうにしていたが、気づかないふり、無視だ。でも本当に悩んでいるのだ。このワンピース。青がいいかな、白がいいかな。ふたりで来ていたので店員さんに声をかけられることはなかったが、もしかしたら外で幸男が話しかけられているかもしれない。そう考えると少し可哀想な気もしたけれどやっぱりなんか楽しかった。ごめんよ幸男。


「じゃん!まずは青!ねーどう?」
「あーもうそれでいいだろ!?」
「よくなーい!じゃあ次白着るね!」
「早くしろ!」


いよいよ本格的にイライラしてきているようだ。


「じゃーん!白!どう?」
「青!青にしろ!」
「うん、そうするね!」


幸男越しにクスクスと悪いを堪えている店員さんを見つけた。面白いよね、多分わたしも他人だったら絶対笑ってる。可哀想なのでさっさと着替えて青のワンピースをお買い上げして店をでた。


「……いいのか?」
「何が?」
「それで」
「幸男が選んでくれたじゃん」
「あー…そりゃそうだけどよ…」
「いいじゃん青、海常の色で!」


変なところで気にしいだ。そういう優しいところも好きだけど。わたしにとって重要なのは色なんかじゃなく幸男が選んでくれたワンピース、っていうことのほうがずっとずっと大切なのに。


「ねえ、本屋さん行こ!」


わたしは話題を買えるように幸男の大きな手を引いて本屋に向かった。




「今月の月バスまだ買ってないの」
「なら貸すけど」
「買って本棚に並べたいの!」


そう、今月の月バスを買いに来たつもりだった。それなのに、本屋に入るやいなや、店頭に並ぶ大量の雑誌の表紙は、


「「黄瀬……」」


至る所に黄瀬黄瀬黄瀬。雑誌の広告も貼ってあるし、つうかその本売ってるんだから広告貼る必要なくない?と思う。表紙を飾る黄瀬はたまに学校で見るモデル用の笑顔でりんごを持っていた。なぜりんご。そしてそのりんごの隣には“黄瀬涼太のヒミツ大特集!”の文字。


「黄瀬涼太のヒミツだって」
「知りたくもねえな」
「黄瀬ってさ……こうやってみるとモデルなんだね」
「俺たちにしてみればただのデカくてうるさい後輩だろ」
「まあね」


面白そうだから買ってみよう。もしかしたら何か面白いネタが見つかるかもしれない。読む?貸すよ?と言ってみたけれど、全力で嫌な顔をされた。まあわたしも知ったところで結局のところどうでもいいのだけれど。モデルの黄瀬涼太が嘘の姿だとは言わない。けれど、わたしたちにとっての黄瀬は海常バスケ部1年の黄瀬涼太で、それ以外は何もいらない。


「黄瀬って今日なにしてんのかな?」
「知らねえ」
「黄瀬って友達いんのかな」
「……知らねえ」
「次は誘ってあげようよ。喜ぶよ、多分」
「そうだな」
「あとみんなで遊ぼ」


ここにいない仲間の顔を思い浮かべた。一日いないだけなのに、思い出したら少し寂しくなった。明日の部活楽しみだな。早川の元気な挨拶から始まって、森山の女好きに呆れて、小堀に癒されて、寄ってくる黄瀬を適当にあしらって。明日もそんな一日が来るのだろうか。


「帰るか。明日からまた練習だ」
「そうだね!」


たまにはこんなオフもいいかもしれない。けれど、まだわたしには休みよりももっと大事な、大切な、懸けたいものがある。今年こそ頂点に。

今みんなは何を考えているのかな。




130216



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