足が棒のよう、とはまさにこのことかと実感することが最近多い。仕事が終わってトイレに入ると、力が抜けたように便座に滑り落ちた。今日は随分と疲れた。あと一日、明日の仕事さえ終われば休みだ。一日中寝る、ということは流石にできないが家に篭ることができる。朝起きてご飯と弁当を作って、見送って、久しぶりに溜まった家事をして、そうして夕方まではお昼寝ができる。まるでダメ人間のような生活だがたまには許されるだろう。許されないなら、別れてやる。
あとひと踏ん張りだ、帰って夕飯を作ってさっさと寝よう。せめてお風呂くらい洗ってくれればいいものの、そんな望みははじめから叶わないことはわかっている。よいしょ、と小さく声を出して立ち上がろうとすると、膝が震えた。あと少し、帰るだけだ。家のドアを開ければ第一声、飯、とだけ言われるんだろう。分かってる、何時ものことだ。それでも今日聞いたら何かがダメになる気がした。考えるな、何も考えなければいい。足に力を入れて踏ん張る。重い荷物を肩にかけて会社を出る階段を降りた。足元がおぼつかない、手摺に掴まり下を向きながら一歩一歩歩き出す。

「おい」

だから気がつかなかったのだ。会社の裏口の目の前、ガードレールにもたれかかって、いつもわたしが覇気よく喋りなさいよ、と言いたくなる気だるげな声。

「かえんぞ」
「は」
「腹減った」
「なんでいんの」
「あ?別にいいだろ」
「頼んでない。だいたい、」

だいたい、迎えに来るなら車で来てくれればいいじゃん。なんでわざわざ歩いてくるの。疲れるようなことするの。迎えに来る時間があるならご飯作るとか、お風呂沸かすとか、もっとすることあるでしょ。頭の中では言いたいことがたくさんあるのに、一つとして口にすることができなかった。きっと今、上手く笑えていない。なぜか涙が溢れそうな気がした。

「ばかじゃないの」
「うるせえ。俺は腹減ったんだよ」
「カップラでも食べればいいでしょ」
「あれは美味くねえ」
「...ばか」

さっさと帰るぞ、と荷物を取られ腕を引かれた。いつだってわたしの数歩先を歩くのだ。そしていつも振り返って、わたしの手を引く。今はそれでもいいと思った。きっと今のわたしの顔は、とてつもなく変だ。

「ハーゲンダッツ食うか」
「うん。コンビニ行こ」
「今日の飯なに」
「どうしよ、あるもの丼かな」
「あー、帰ったらまず風呂な。お前も」
「は?やだよ。明日も仕事なの。勝手に一人で入ってて」
「明日ならいいんだな」
「よくない」


140716

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テーマ「人外ファンタジー」
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