わたしは青峰の背中が好きだ。

彼はいつだってわたしの前を歩く。隣を歩こうという気は少しもないのだろう。前だけを見つめて、あとのことなんて何も考えていない。だからわたしはいつも、青峰の背中を見てきた。
それが嫌いではない、その大きな背中が、わたしは好きだ。頼り甲斐のある背中が好き。でも時々、追いかけるのに必死で、いつか置いていかれてしまうのではないかと不安になる。そんな時は少し立ち止まって、わたしの手を引いてくれる。だから、好き。
口には出さないけど、追いかけるのを諦めそうになった時、もう手が届かなくなるんじゃないかって暗闇に堕ちそうになった時、同じ高さまで引き上げてくれようとする、そんな青峰が好き。だからわたしは追いかけることをやめたくない。いつだってその背中に守られてきたから。助けてもらったから。かっこいいなって思ったから、決めたの。何歩遅れても隣を歩くことを諦めたくない。いつか必ず、自信を持ってあなたの隣を歩けるような女になるから。

その骨ばった手も、青くて綺麗な短い髪も、わたしを消してしまうくらい大きな体も、全部好き。いつも馬鹿にする浅黒い肌も、本当は大好きよ。それに包まれて眠らないと涙が出そうになるくらいに。素直に言葉にできたならよかったのに。似たもの同士ね、なんてわたしと青峰を知る人は言う。きっとそうなんだろう。わたしも青峰も、言葉にするのが苦手だ。でもわたしは態度に出すことすは恥ずかしくて。じゃあわたしの気持ちって青峰に伝わっているのかな。なんで青峰はわたしと一緒にいてくれるんだろう。いつもその堂々巡り。
ひとりでぐるぐる悩んでると黙ってそばにいてくれる。言わなくても伝わるなんて自惚れてはいないけど、そんな時はいつも隣にいて、何も言わずに抱きしめてくれる。暖かくて大きな体に包まれると、全部どうでもよくなって、今がしあわせだからそれでいいかな、って。

「ねえ」

背を向けて寝る青峰のシャツをギュッと掴んだ。今しあわせ?そう聞いてすべてが終わってしまったらどうしよう。口に出すのが怖くなって、しがみつくように体を寄せた。ねえ、どこにもいかないで。ワガママでごめんね。そばにいて。ずっと一緒にいて。

「バァカ。また変なこと考えてんのか」

それとも構って欲しいのか。

「察しなさいばか」

体を縮ませると、青峰の腕の中にすっぽりとおさまった。あったかい。お腹の中にいる子どもはこんな気持ちなのだろうか。でも、子どもじゃなくてよかった。青峰と愛しあえない人生なんていらないから。




130130


第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -