「りょーた、会いたい」
「……ごめん」
「……わたしがごめん、仕事頑張ってね」

寂しくなって電話した。衝動的に言ってしまって、我儘言って困らせた。後悔してる。パタン、と音を立てて少し古い機種の携帯が閉じた。
昔よりもずっとわたしは欲張りで我儘な女になった。けれど涼太は優しくて、わたしを溶けるほどに甘やかす。恥ずかしくなるくらい、まるでお姫様のように扱って、目一杯愛してくれて、わたしは今すごくしあわせだ。
涼太のこと、大好き。だから言わない。言えない。記憶の中から消えなくても。ずっとずっと昔の話。きっと、一生わたしの中から離れなくて消えない、甘い口付け。あなたの匂い。

優しくて暖かかったその腕の中は、まるで母親の胎内のように居心地がよくて、何となくそれを思い出していたら眠気に襲われた。何もすることはないのだ、もう寝てしまおう。昔の寝顔が、頭の片隅を過った。






雨の日、寂しいっていったら傘もささずに来てくれたこともあったっけ。濡れるっていうのに構わず抱きしめられた。誕生日、一体何回一緒に過ごしたかな。どこに出かけたか、ほんとは全部覚えてる。大輝、あのね、わたし……………






「起きたッスか?」

目を開けたら眩しい金髪が目に入った。りょーた、だ。見た目とは違って少しごつい、大きな手がわたしの額を撫でた。涼太の匂いがする。だめッスよ、こんなとこで寝ちゃ。と軽く小突かれた。まだ視界はぼんやりとしていて、周りははっきり見えい。ねれど、涼太の顔がぐんと近づいてきたのはよくわかって、静かに目を閉じた。ふわりと触れるだけのキスがくすぐったくて、涼太の首に手をまわす。もっと、もっとちょうだい。
しあわせだ。わたしはこんなにも思われて。仕事が終わってすぐに駆けつけてくれる優しい彼氏。毎日楽しいし、好きだって思う。だから秘密。この先ずっとあなたの夢を見ること。




130109
♪記憶の迷路/High-King


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テーマ「人外ファンタジー」
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