3年生になってもう1ヶ月が経とうとしていた。相変わらず部活に明け暮れるという今までと変わらない日常ではあった、しかしその中に一つの変化を得ている。あれから、佐藤さんとは良いクラスメイトの関係を保ったままだが、俺としてはそれ以上の関係を望んでいるので、今までとは違った感情で教室にいる。恋をするとこんなにも気持ちが変わるのかというくらい毎日が倍明るくなり、嫌いな授業を受けている時間も佐藤さんと一緒なら悪くないなと思い始めている自分に気づいた時は若干引いた。だが、今までもクラスにいるのは好きだったが、現在はそれ以上だ。唯一気になるのはやたらとモーションをかけてくる男共多数。


「はよせんと誰かに取られてしまうで?」
「わーってるよ!」


主観的に見てもわかりやすい性格だと自覚しているので、自身の気持ちに気づいた時点でばれる前に侑士に相談した。予防線を張った、という理由もなくはない。もちろんそんな俺の気持ちも見越していようがなかろうが、侑士は友達の好きな奴にモーションかけにいくようなやつではないと思う、多分。


「んでさ、明日は一緒に日直なんだよ!」
「チャンスやなあ」
「だろ!?どうすりゃいいのかと思って」
「岳人はわかりやすいから普通にしてたほうがええんちゃう?」
「…そっか」


俺ってそんなにもわかりやすいのかと悲しくなり、せっかくのダブルスのパートナーなのだ、侑士からポーカーフェイスを学ぼうと胸に誓った。





次の日、佐藤さんとの日直の当番の日がやってきた。部活を早めに切り上げて一緒に職員室に日誌を取りに行ったり、授業終わりの黒板の板書を消したり、今までなら面倒くさかった仕事も佐藤さんとなら楽しい、と浮かれた気持ちでやっていた。こういう楽しい時に限って時間は早く過ぎるものであり、気がつけばもう時間は放課後になっている。


「あー!やっべ、俺部活始まるまでに跡部に出さなきゃいけないプリントあったんだった…」
「もう日誌書くだけだし、向日くん部活行っていいよ?」
「だめだめ!わりーもん!すぐ戻って来るから!」


ほんとは悪いとか思ってるわけじゃない、俺が佐藤さんと一緒にいたいだけ。ただの下心だ……佐藤さんの優しい心とは正反対。好きなんだから別にいいよな!そう思って教室を飛び出し、走って部室まで向かった。跡部はもう部活を始める準備が終わりちょうど部室を出てきたところで、プリントを渡したら怒られた。お前はいつも締め切りギリギリだ、もっと余裕を持って出せ、と小言を言われ、出さないジローよりはましだ!と捨てぜりふを叫び、再び教室に戻る。スタミナないのに結構頑張って走ったな、俺。息が上がっていたので軽く呼吸を整えて教室の扉をあけた。


「ほんとわりー!」
「ううん、向日くん早いね」


自分の席に戻り、視線を下に戻し日誌を書く佐藤さんを、気づかれないように横目で見つめる。夕日に当たる佐藤さんがあまりにも綺麗すぎて、心臓が高鳴った。


「あ、あのさ、佐藤さんはなんで氷帝に転校してきたんだ?転勤?」
「…うーんとね」
「言えない理由ならいいんだけどさ…」
「……会いたい人がいたんだ」
「会いたい、人?」
「うん、どうしてもその人に会いたくて、話をしたくて氷帝に来たの」


そう言った佐藤さんの顔は、いつもより更に優しい。この頬の赤みは夕日のせいじゃない、多分。瞬間、ああ、これは好きな奴なんだって気づいた。


「…その人には会えた?」
「…うん」
「話した?」
「たくさん」
「その人のこと……好きなんだ」
「……うん」


そうか、俺は失恋したんだ。彼女の視界の中に俺はいない。彼女が見ているのは、別の男。


「日誌もう書き終わったよな!俺職員室に持ってくな!」
「えっ、一緒に行くよ」
「いいって!全部書いてくれたしこれは俺がやるから!じゃあまた明日な!」


佐藤さんの顔も見ないで、返事も聞かないで教室を飛び出した。早く部活に行かないと、ラケットを振って忘れよう。そう思って廊下を駆け抜けた。廊下を走るな!と怒鳴る先生も無視してひたすら走る。気がつけば俺は家まで帰っていた。頬を伝う冷たい滴に気がつかないまま。





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テーマ「人外ファンタジー」
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