俺は今、モテない期真っ盛りだと思う。だいたい、向こうが告ってきたのに俺が振られるってどういう話だ。しかもビンタなんかしやがって。そりゃあ…まぁ悪いのは俺だけど。
まだヒリヒリする頬をさすりながらぼんやりと窓の外を眺めた。はっきり言ってしまえば、最後まで本気で好きにはなれなかった。だけどそれでも好きになろうと努力したし、浮気だってしなかったのに。これだから女は怖い。心の奥底を簡単に見抜いてしまうから。周りのやつらみたいに適当に恋愛ができたらどんなに楽だろうと思う。何となくつき合って、別れて、そんな風に青春を謳歌したいのになんだよクソ。学生時代の半分以上を野球に費やしたわけだから、そろそろモテ期が来たっていい頃だろ。神様だって少しくらいご褒美をくれりゃいいのに。
と言ったって実際完璧に野球断ちをできたかといわれたらそんなことは有り得なくて、今は週3の野球サークルで草野球。髪染めてピアスしてるような奴らばっかの中に俺も混じって野球してる。見た目こそチャラいけど、みんなちょっと前までは坊主で白球を追っていた高校球児だった。たまに真剣に野球をすることだってある。それでも、朝から晩まで野球、なんてことはしない。もう二度とない。それは分かってる。現状には充分満足してるしキツい練習なんてのはもう御免だ。それなのに、
『○○○・田島、200安打達。日本人通算4人目…』
目の前に見える電光掲示板に速報が流れた。田島、今日打ったんだな。今月に入ってから200安打に届きそうで連日ニュースでやっていたけど、ついに届いたのか。思わず自分のことのように嬉しくなる。田島はプロに入った。ドラフト1位で指名されて2年目の今年、ルーキーイヤーのこの年に200安打。今年の新人王は間違いないな。そんな元チームメイトに比べ、俺。草野球なんて違いすぎる。他に大学の野球部で野球を続けてるやつだっているし、もうすっかりやってないやつもいる。なのに俺は草野球。週3。なんて中途半端なんだ。未練タラタラな自分にムカつく。結局何も変わってない。昔から、何も。
「帰るか……っ?!」
今、俺の目の前を通ったやつ、あれは…?!急いで席を立ちレジに走った。会計をしてる暇も惜しくて財布から適当に札を一枚抜き取ってそれを置いて店を飛び出す。間違いない、あれは!!人混みを掻き分け必死に探す。どこだ、どこだ!
「孝介、別れよう」
嫌だ、なんてかっこ悪いことは言えなかった。最後まで見栄を張りたくて言わなかった。でも、まだ好きなんだ。どんなにほかの奴を見ようとしたって、離れない。あいつの思い出が頭に染み付いて離れない。
「どこだよっ…!」
確かにあいつだった。もう1年ぐらい会ってないけど、髪の色も違ったけど、でもあの横顔は確かにあいつだった。あの大きな目に薄い唇、あの横顔は絶対に。俺はまだ好きなんだよ…!
「っていう夢を見た」
「馬鹿でしょ」
必死に追いかけているところで目が覚めた。一瞬現実なのかと焦り携帯を開くと、ちゃんと2009年11月24日の表示。そして時間は。
「やっべ!遅刻!」
現在10時。そして今日のデートの待ち合わせ時刻は10時。確実に遅刻だ!と思っていたら家のチャイムが鳴ったのが聞こえた。
「っていうかね、今日私もおんなじような夢見たの」
「……まじで?」
「だからちょっと怖くて孝介の家に来たの。入れ違いにならなくてよかったわー。孝介遅刻感謝」
「うっせ。なんかお互い気味わりいな」
「だよね。あのさ…そんなこと、ならないよね?」
「あったりめーだろ」
心配そうな顔をするこいつをぎゅっと抱き締めてやる。バカ、あり得ねーよそんなこと。絶対にな。
数年後、その夢が本当になることを俺たちはまだ知らない。
091124
♪if.../DA PUMP