「ああああああべっ…」
「何だよ」
「あのさ、あの」
「だから何だよ」
「あの…あのね、」
「はっきりしろよ!」
「なんでもないっ!」

負けた…。やっぱり阿部の鬼の形相は無理、怖い。教室を飛び出してからこっそり中を見ると、阿部は「はあ?」と言う顔をして、それを見た水谷が「今のは阿部が悪いよねー花井」「そうだな…」「あいつがはっきりしねーからだろ。わけわかんねえ」…グサッ。わけわかんねえだってさ…しょうがないじゃん、だって怖かったんだもん。

なんで阿部を好きになったんだろう。ぶっきらぼうで無愛想で口も悪いしすぐ怒るし。でもほんとは優しくて仲間思いでたまに笑うと可愛い。だから、好き。ああもうやになっちゃう!普段は普通に喋れるのにおめでとうの一つも言えないなんて。草食系か!勇気を出してプレゼント買わなくて正解だったな。ふと廊下を見渡すと以前、夏頃より随分とカップルが増えた気がする。ちくしょうめ…きっと幸せなクリスマスを過ごすに違いない。寒い廊下にいるからなのか、心までものすごく寒くなった。



結局何も起きないまま放課後になって、阿部達野球部はさっさと部活に行ってしまった。終わった…阿部の誕生日…。私ヘタレじゃん!いつものように友達として話しかければいいのに。たった一言、「おめでとう」って。それが言えないのは私がそれ以上を望んでいるから?何だか頭の中がぐちゃぐちゃしてきた。ため息をついて教室を出る。来年また出直すか…。

「あ、丁度よかった」
「っあ阿部?」

教室の扉に手をかけた瞬間だった。私が扉を開く前にそれはがらっと開いて、目の前には阿部。ちょっと、近い!心拍数がどんどんと早くなる。まるで阿部に聞こえてしまうんじゃないかと言うくらいに。

「あのさ、わりいけどこの日誌職員室まで持ってってくんねえ?もうすぐ部活始まんだよ」
「勿論タダじゃないよね?」
「チッ…明日の昼奢る」
「イチゴ牛乳も飲みたいな〜」
「わかったよ!頼むからな」
「りょーかいー」

普通に話せてる、よね?それにしてもなんて可愛くない会話だろう。もっと気を利かして笑顔でいいよって言いたかった。ってあれ…阿部もう行っちゃうの?!阿部は会話が終了したと同時に回れ右をして廊下を走った。ちょっと待って!私の最後のチャンス…!

「あべっ!」
「何だよ!」
「誕生日…おめっおめでとう!」

もう遥か遠くにいた阿部が立ち止まって、振り返った。目が悪くてよく見えない。…と思ったら阿部は再び走り出した。う、嘘でしょ…?無視…?ガーン、と頭の上に何かが落ちてきた気がした。ショック…言わなきゃよかった…昼飯…イチゴ牛乳…

その夜、枕に涙を浮かべていたら携帯が鳴った。知らないアドレスだ、と思いよく見るとタイトルには阿部って書いてある。


“今日はありがとう”


明日、お昼もイチゴ牛乳もいらないや。そのかわり、やっぱり阿部が欲しいかも。





101211
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