厚く濃く塗られた化粧に、くるくると巻かれた金色の髪。ワックスで固められたパサパサの髪が胸に埋まる。強い香水の匂いが鼻をツンと刺すのに、こんなにも愛しいのは何故だろう。その厚く塗られた化粧の奥には優しい顔が隠れていることを知っている。わざとたくさんつけた香水も、痛むまで染めて巻いた髪も、強がった性格も、全部嘘で塗り固められた姿だと知っている。ほんとは孤独が怖くて淋しがり屋な少女だということも、全部。

小さな体を包み込むように抱きしめると、彼女の腕が背中に回った。震える体を暖めるようにそっと背中を撫でる。

「なんで」

彼女が顔を上げて目線を合わせた。眉間にキュッとしわを寄せてひとつ、瞬きをする。バサリ、と音がしそうなほど長い睫毛には勿論付け睫毛がついていて、そんなものをつけなくたって十分に長いのにと思う。何故だろう。俺なら彼女の全てを愛してあげられるのに。彼女も、その彼女を艶やかに彩る付け睫毛すら愛することができるのに。何故、俺じゃ駄目なんだろう。

「アンタは変だよ」
「何で?」
「私ヤリマンだし」
「あぁ」
「客欲しさで汚い手だっていっぱい使う」
「あぁ」
「股は開いても心は絶対開かない」
「あぁ」
「でもアンタは若いのに金持ちだし、社長だし」
「……」
「それなのにこんな安っぽい店でこんな汚い私にいっぱい金使って」
「……」
「私がアンタの金目当てで相手してんのに、しかもそれに気づいてたんでしょ」



「何で私なの?遊びだったらもう止めて」

いつのまにか腕の中に彼女はいなくて、俺と対峙していた。ブカブカのTシャツから覗くすらりと伸びた足が雰囲気に似合わず扇情的で、僅かに本能が疼く。

「金くれるだけでよかったんだよ。優しさなんていらなかった。私は……アンタに、慎吾さんに本気になんてなりたくなかった」
「…なんで」
「だってどうせ遊びなんでしょ?私をこんなに傷つけて満足?…もう止めてよ」





何で、


「俺は遊びの女に優しくなんかしない。高いものなんて買ってやらない。キスなんてしない。傷付いた?辛かった?お前はそれしか俺から感じなかったのか?」
「……」
「何でわからないんだ。何で自分を責めるんだ。傷付けてるのはお前自身だよ」

「俺はこんなにも愛してるのに」

俺は彼女を愛してる。彼女も、彼女の愛犬も、彼女がベランダで育てている小さな花も、彼女を取り巻く全てを。俺はこんなにも愛しているのに。世界中の誰よりも彼女を愛してる、彼女にもいつかは伝わると、ずっと信じてきた。

「なあ」
「………ぁ」
「どうした?」
「……嘘じゃないの?……ほんとなの?」
「…俺は嘘なんかつかないよ」
「だって、こんな私、」
「好きだ」
「っ…!」
「店を辞めろ、俺と…俺と結婚して」

そしてまた、俺の腕の中には彼女の温もりがあった。胸の中に飛び込んだ愛しい彼女の体。小さく覗く彼女の顔、その目から、ぽろり、ぽろりと小さな雫が頬を伝った。それは何億円もするダイヤモンドよりも、世界の美女なんかよりもずっと美しかった。愛しい。例え厚く塗られた化粧で痛んだ金髪で、きつい香水をつけた彼女だとしても、俺はやっぱり彼女が世界で1番愛しいのだ。





101023
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