寒くて寒くて、ずっと凍えていた。先週まで毎日暑かったのに今週に入っていきなり気温が下がり、そして更に体温を下げる雨。布団の中に入りブルブルと震える。やっぱり、無理して東京で一人暮らしなんて止めておけばよかったんだ。一人の夜がこんなにも淋しいなんて。

携帯を開くと愛しい彼の顔が目に入った。次いで右上の時計に視線を移す。午前3時40分。やめよう。いくら慎吾だってこんな時間には起きていない。

「……」
『もしもし』
「……」
『どうした?』
「ごめん、夜中に」
『いいから。何かあったんだろ』

気がついたら通話ボタンを押していた。しかしいざかけてみると何も言えなかった。お互いに黙り込んでしまい、数秒の沈黙。閉めきった窓の外から聞こえてくる雨の音だけが響く。

「間違って押しちゃったみたい。起こしてごめん」
『…ならいいけど』
「明日朝からバイトなんでしょ?ほら、寝なきゃ」
『じゃあ、おやすみ』
「おやすみなさい」

やがてツーツー、と電子音が聞こえてきて携帯をパタンと閉じた。向こうから切られちゃったなー、なんて。そういえば今までこんなこと考えてなかったけど慎吾は私が切るのをずっと待っててくれたのかな。そう考えるといっそう恋しくなって布団を頭から被り、小さく丸まる。淋しくなんかないもん。小声で呟くと、身体がぶるっと震えた。外で強い風が吹いてるのがわかる。なんだかゴロゴロと雷の音も聞こえてきた。怖い。手で耳を塞いでも聞こえてくる音が更に恐怖を煽る。お願い、誰か。


ピンポーン

その時、甲高いチャイムの音が部屋に響いた。
嘘でしょ?まさか、そんなこと。だって、もう朝の4時をとっくに過ぎてるのに。電話を向こうから切ってしまうくらい眠かったはず。それでも、と期待してしまう。どくどくと少し心臓が高鳴って、布団から出る。そして冷たいドアノブに手をかけて、開けた。

「慎吾っ」

やっぱりいた。

「なんで!」
「あんな電話かけられたら心配だろ。しかも途中から雷まで鳴るし。お前雷超苦手じゃん」
「でも…!」
「それよりさ、流石にさみーの。お前もそんなかっこで寒いだろ」
「あっタオル!」

慌てて洗面所に行ってバスタオルを取る。慎吾は家の中に入り着ていた濡れたジャンパーを玄関先のハンガーにかけて部屋の中に入った。

「はい、タオル」
「サンキュ」
「ちょっと待ってね、今お湯沸かすから」

とりあえず暖かいものを準備しなくちゃいけない。ヤカンにお湯を入れて火にかける。コーヒーかな、紅茶かな。そして暗かった部屋の電気をつけた。慎吾はいつものようにベッドに腰掛け、私はその横に座った。

「淋しかったんだろ」
「うん」
「珍しく素直じゃん…逆にビビるんだけど」
「雷の日限定だから。あのさ、やっぱりごめん」
「気にすんなってば。俺が来たくて来たんだから」

そう言って慎吾にぎゅっと抱きしめられる。雨に打たれた体は冷たいはずなのに、私の体は熱くなった。あったかい。

「やっぱりもう寝たほうがいいよ」
「寝れんの?」
「うん、もう平気」
「じゃあお湯いいから火消せよ」

慎吾は私の体を解放してキッチンの方に歩いた。暖かかった体は急に冷えて、その熱がとても名残惜しくて、なんて絶対に言わないけど。

「電気消すぞ」
「ん、慎吾も入って。襲わないでよ」
「何だよそれ」
「……」
「わかってるっつーの」

慎吾をベッドに招き入れる。さっきまでと違って、今度は布団の中に2人。触れ合ったところがとても暖かくて、私は慎吾を抱きしめた。

「…襲ってほしいの?」
「あったかいね、慎吾」
「…はあ。おやすみ」
「…おやすみ…」

段々と意識が遠のいていく中で、優しく頭を撫でられる感覚だけがわかった。私はさらに体をぎゅっと寄せ、そのまま眠りについた。安心。この言葉がふっと頭によぎり、私は慎吾の腕の中でかすかに笑みを浮かべた。ありがとう、慎吾。





100920
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