教室は異様な臭いが充満していた。色んな人の化粧品や香水の臭い。暑さのせいで余計もわんと漂っている。なぜかと言うと今日はうちのクラスの高杉の誕生日だからで、ケバケバしい女子はとても気合いが入ってる、らしい。特定の彼女がいなくていつも派手めな女を連れているから自分達にもチャンスがあると思っているのか、勿論中には一度くらい関係を持った人もいるだろう。しかし実の所、高杉の好みのタイプは清楚で大人しめな子であることを誰も知らない。ここまで言ってなぜ私はこれほどまでに高杉のことを知っているのかというと、私が晋助の幼なじみだからである。

「そもそも晋助が夏休みの補習に真面目に来ると思ってるのかねえ」
「そんなことが起きりゃ明日は雪が降りまさァ」

確かに沖田に比べて遥かに出席率の悪い晋助が来たら何か起こるかもしれないが、そんなことを言う割に隣の席の沖田だって補習に出るのは珍しい。そして今日はいつもつけているアイマスクを鼻の位置まで降ろしていた。

「いいなそれ」
「あげやせんぜ」
「いらねーやい。いいよ、うちわでパタパタしてるから」

パタパタ、と扇ぎ漂う臭いを押し返す。それが沖田の鼻に臭ったのか、微かに顔を歪めた。

「あちィ、クーラーつけろよ銀八」
「沖田くーん、授業中にアイマスクは止めようかー?先生ボイコットされてるみたいで悲しいなー」

沖田はそれだけ言うと席を立って教室を出た。授業中なのに。





「ただい…なんでいんの」
「あァ?お前の母さんに呼ばれたんだよ」
「“晋ちゃんプレゼントよー“って?お前はいくつだ」
「お前がおばさんに言えよ」

家に帰りリビングの扉を開けると、ひんやりとした空気と同時にソファーにゆったりとくつろぐ晋助が目に入った。いつも思うが、いくら慣れ親しんでいるとはいえここは他人の家なのだが。

「今日すごかった」
「何がだよ」
「晋助の誕生日だから気合いの入った女子が沢山」
「補習なんか出るわけがねェのにな」
「メールとか着てないの?」
「今日は携帯の電源切ってある」

晋助はポケットから自慢げに携帯電話を取り出して見せてきたが、正直どうでもいい話だ。





「晋ちゃんもう帰るの?」
「一応予定あるんで」
「あら、デートかしら?若いっていいわね〜!」

家を出る時、晋助はお母さんに絡まれていた。グイグイ来るお母さんに若干たじろぐ晋助が面白くて仕方がない。私が笑いを堪えていると思い切りギロリと睨まれた。

「もしもこの子が嫁き遅れた時は晋ちゃん貰ってくれないかしら」
「いや、遠慮しときます」
「お前失礼だな」

この立ち話の途中、玄関に焦げ臭いが漂ってきてお母さんは慌ててキッチンに戻った。晋助と二人、顔を見合わせる。

「おばさん相変わらずだな」
「うん」
「つうか何かないのかよ」
「何が」
「プレゼント」
「じゃあテメェでいい」
「は?」
「テメェが嫁き遅れたら貰ってやるよ」

それだけ言って晋助はひらひらと手を振りながら我が家を後にした。ちょっと待て、何かすごい爆弾を置いてった気がする。

私は家に戻り携帯電話を手に取った。アドレス帳を見ながら久しぶりにかける番号は、隣の家の高杉宅。とりあえずさっきの返事をしよう。私をあげるよって。





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