ふと視界に入った大好きな彼の姿と大好きな友達の姿。仲良さそうに話す2人を見るのはもう何度目か。その度に胸がきゅうっと締め付けられて涙が出そうになる。たわいもないを話をしてるんだとわかってる。千代にその気がちっともないということもわかってる。でも嬉しそうに、幸せそうに話す水谷くんを見るのが苦しい。水谷くんの見せる、いつもとは違った笑顔。千代の前でだけ見せる優しい笑顔。私は、水谷が好きなのに。千代だってそれを知ってる。なのになんで?なんで話すの、なんて我が儘なことを思う。

「またしのーかと話せた!幸せ〜」

なんで仲の良い友達になんてなっちゃったんだろう。なんで、

「やっぱりこういうのは親友にしか話せないよなー」

親友になんてなっちゃったの?

「お前もさ、なんか悩んでたら俺に話してよね!」

わかってないよ。わかってないよ水谷は。話せるわけないじゃない。話したら水谷は、私のことを愛してくれるの?

「話したとこでクソレに解決できるわけないじゃない」
「ひどっ!いつまでクソレって言うんだよー!」

こうして自分の感情を心の奥底に隠すことももう慣れた。



「さっき阿部くんと長く喋っちゃった!」
「よかったじゃん!」
「お互い頑張ろうね!」
「私、もう水谷のこと好きじゃないんだ」
「え…?」
「だからさ、もういいんだ」

もうたくさんだ。水谷のことで何もかも振り回されるのは。水谷と話す千代をこれ以上見ていたら、きっと嫌いになってしまうから。

「だから水谷のことはもう言わないで」

そこまで言って、無理矢理この気持ちを殺したことを自ら言ってしまったことに気付き、自己嫌悪。ちらりと千代のほうを見れば、何か言いたそうな顔をしていた。でも、言わない。こんな人だから、こんな優しい千代だから嫌いになんかなりたくはない。そして、この気持ちを封印する。いつか本当に消えてしまうその日まで。

「あ、しのーか!今日の部活のことなんだけどさー」

いらない。もう水谷なんていらない。だから入ってこないでよ。お願いだから、もう私の中に入ってこないで。

「俺の今日のおにぎりの中身って何?」
「水谷のおにぎり?えっとね…」
「千代、私帰るね」
「えっちょっと!」

まだ1時間残ってるけど構わない。今この瞬間、この場にいたら私、多分どうにかなっちゃう。

「サボりかよー」
「違うし。なんかお腹痛い」
「ほんとに?じゃあなー、お大事に!」

ズキッ
胸が痛い、裂けそう。
笑わないで。私に向かってそんな笑顔を向けないでよ。苦しくなるじゃない。泣きたくなるじゃない。

嬉しくなるじゃない。好きになるじゃない。





100712
企画冥王星に添う星様に提出

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