兵太夫が死んだ。合戦中に。私は学園を卒業して暫く、くの一を止めて兵太夫と結婚した。不安や心配に駆られることは何度もあったけど、無事に帰ってきてくれて2人でいるあの空間。幸せだった。ただそれだけでよかったのに。人を殺した人間はろくな死に方をしないんだろうな。といつだかきり丸がぽつりと言っていた。多分その通りなんだろう。人を殺す職業についた兵太夫は人に殺されたんだから。私も昔人を殺した。あの時はくの一になると心に決めていたから殺すことは厭わなかった、けど殺した瞬間のあのぞわりとした感覚。一生忘れられない。なぜ忍になるんだろう。私はなぜあの時くの一になろうと決めていた。わからない、あの時の自分が。そしてなぜ、兵太夫は忍者として生きることを決めたんだろう。入学してくるときの理由はそれぞれある。卒業して家業を継ぐ人だっている。なぜ、人を殺す忍になるのか。考えてみたら得るものなんて何もないのに。何故。何故。
私もきっとろくな死に方なんてしないんだろう。それでいい。それが、いい。じゃなきゃ不公平だ。兵太夫に顔を合わせられない。頭の中がぐるぐると渦巻いている。ああ、兵太夫がいないんだったら私はどうすればいいんだろう。生きる意味なんてないのに。
「ねぇ」
「……何だよ」
「殺してよ。私のこと」
「兵太夫の後を追うのか」
「このままのらくら生きてたって意味ないもの」
例え兵太夫が望んでいなくても、ね。
何となくこの後何十年も生きるより、死んであの世で兵太夫とずっと一緒にいれるほうが何倍も幸せだ。だから、
「だから殺して?」
その瞬間私の目の前に血飛沫がたった。ありがとう、ごめんね。こんな私を斬ってくれて。ああ、泣かないで。こんな私のために涙なんて流さないで。幸せになるから。幸せになるために私は行くの。だから、そんな顔をしないで。
ごめんね兵太夫。今行くから。
100408