「謙也」

「……」

「ねぇ謙也ってば」

「っあぁ…何?」

「何って、ぼーっとしてるから。私の話聞いてた?」

「当たり前やん。ちゃんと聞いてるで?」

「ならいいけど」



嘘のくせに。
ほんとは何一つ聞いてなかったくせに。でも、ここで「じゃあ私何て言ってた?」とは聞かない。嫌われたくないもの。

謙也が私なんか見てないこととっくに気付いてる。今だって私のことを放って窓の外を眺めて。謙也の視線の先には、多分隣のクラスの女の子。いつからだったか、気付いたときには謙也はいつもその子を目で追っていた。無意識なんだろう。好きだなんて気付いてもないはずだ。何でなの?ずっと一緒にいた私よりも話したこともない女を選ぶっていうの?


謙也は優しい。それでも私のことを大事にしてくれる。手も繋いでくれるし、キスもしてくれる。それ以上だって。その優しさが私をさらに傷つけてることを謙也は知らない。そんな風に優しくされたって虚しくなるだけなのに。それでも、好きだから。まだまだ隣にいたいから。私は謙也の優しさに漬け込む。一生離してやるものか。





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