その日、初めて煙草を覚えた。

病院の屋上に落ちていた煙草の箱。興味本位かやけくそだったのか、その日のことはあまり覚えてない。火をつけてふかしてみると大量の煙にむせてしまった。こんな糞まじいやつをいつも土方さんは吸ってるのかと思うと益々引いた。あのマヨネーズだけでも十分引くのに土方さんはの味覚はどうなってんだ。しかし暫くぷかぷか吸っていると段々慣れて病みつきになっていくのがわかった。……これがニコ中のはじまりなのか……。そう思いつつも煙草を吸うのは止められなかった。ここら辺からはもうやけくそだ。

煙草を吸ってる間は総悟のことを忘れられるかと思ったがそうでもなかった。寧ろ色々考えてしまって気分が滅入る。それでも吸うのをやめられないのは多分もう立派なニコ中になってしまったからだ。



「総悟はね、ミツバさんしか見えてないんですよ」

「……」

「総悟の視界の中に私なんてチラッとも入ってなかったんです」

「そんなこたァねえだろ」

「違わないよ、旦那。総悟はいつだってミツバさんと、局長と土方さんぐらいしか見てないの」


ミツバさんが亡くなって暫く、暇を見つけては万屋にいた。煙草ぷかぷか、新八くんと神楽ちゃんはびっくりしてたけど、旦那は何も言わなかった。それが有り難くて私はずっとここに居座る。総悟から、逃げてるわけじゃない。



「俺にはそんな風には見えなかったけどな。沖田くんはちゃんとお前も大切にしてただろ」

「……違うよ」

「違わねェよ。じゃなかったら、ほら」





「迎えにくるわけねえだろうなァ、総一郎くん」






「は、」



総一郎くん、その言葉に大きく目を見開く。違う、違うよ。総悟はそんなんじゃなくて。いつだって私なんか、



「何やってんでィ、不良少女。遂に土方さんと同じニコ中になったか」

「そうご」

「早死にしたいんだったら勝手に吸いやせェ。けどな、テメーが死んで悲しむ奴がいるのを忘れんな」



帰るぞ、そう言って総悟は私の腕を掴みグッと引っ張る。その力が強かったもんだから、吸っていた煙草を取り落とした。



「待って総悟」

「あー行け行け。煙草は優しい銀さんが片付けといてやるから」

「すいやせんね。今度パフェでも奢りまさァ。………こいつが」

「私かよ!」



何だよ勝手に連れてくくせに。今の今までほっぽっといたくせに今更。何で今更私の心配なんてするの。



「総悟、待ってよ」



万屋を出た後も総悟は私の腕を離してくれない。掴まれた部分がキチキチと痛む。私の数歩先を歩く総悟の顔は見えなくて何を考えているかもわからないし、引っ張られて痛いし。

そんなことを考えているうちにポツリ、ポツリと雨が降ってきた。傘もなく濡れる私と総悟。段々と雨は強くなっていく。



「ねぇ総悟、離して。痛いよ」

「…煙草」

「え?」

「煙草吸うのやめろ」



やっと腕を離されて総悟が私を見た。怒って、る。



「土方さんはもう完璧なニコ中だからしょうがねェ」



総悟の言いたいことがわからない。何なの。何が言いたいの。ふわりと頭によぎった考えを無理やり否定する。違う、そんなことはない。期待しちゃ駄目なの。



「もう誰も失いたくないんでィ」


「煙草如きって笑うか?それでも」


「俺にとってお前は大切なんでさァ」



そのまま腕を引かれて総悟の腕の中に収まる。雨に打たれて濡れた隊服。冷えた総悟の体温が私に伝わる。冷たくたって、それでも生きてる、ちゃんと。



「姉上も、近藤さんも、土方さんも、隊の奴らも、お前も」



みんな大切なんだよ。

耳元で総悟が言った。体が震える。



「ほんとは、総悟の傍にいたかった。支えたかった」



駄目だね、なんで私が総悟に支えられてるんだろ。ミツバさんを失って辛いのは総悟なのに、心配かけて。本当は、大切にされてることわかってたじゃない。思った分だけ返してくれる人だって、ちゃんとわかってたじゃない。



「寂しかったの。このまま置いてかれると思ったの。だから、」

「次馬鹿なことしたらマヨ丼だからな」

「…もうしません」



ほら、と手を差し出される。私は少し躊躇いながらもその手を取った。まるで小さい頃に戻ったようだ。手を繋いで帰るなんて久しぶり。

「ほら見て。雨上がりの空は綺麗なのよ」



ミツバさんの言ったとおり、雨上がりの空は澄んで綺麗。あ、一番星見つけた。





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企画姉上へに提出

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