これは所謂あれだ。多分、やっちまったパターン。
見慣れたというよりもそもそもこの部屋は私の部屋だ。しかしいつもとは少し違う匂いが混ざっていて、ベッドの下には散らばった男女の下着が。あぁ、やっぱりまっぱで寝ると寒いわね〜なんてボケてる暇もない。恐る恐る隣を見ると、やはり全く知らない男が寝ていた。金髪だ、軽そう。
とりあえず、オブラートに包まずに言うとシてしまったままというのは気持ちが悪い。しかも知らない人だし。ということでシャワーを浴びることにした。浴室までの距離、およそ5メートル。適当に下着やTシャツ何やらを掴んでも3秒で行ける距離だ。よし、行こう。隣でぐっすり寝ている人を起こさないようにそっと布団を出てさぁダッシュ!
「ん……」
「ひぎゃぁぁぁあ!」
私がまっぱでベッドを出た瞬間、タイミング良く、いや悪く?後ろから声がした。いやまさか。寝言だよ。うん、そうに違いない。まるでロボットになったかのようにギギギとゆっくり振り向けば、
「あ、はよ」
「見ないでぇぇぇえ!」
最悪だよもう!何なの何でこんなにタイミング悪いの有り得ない!身の危険を感じた私は着替えなんか取る暇もなく浴室へと飛び込んだ。そしてゆっくりとそこから顔だけ出す。
「見るなっつったって昨日見てんじゃん」
「あぁぁ言わないでよ!ほんとに何も覚えてないんだから!」
「やっぱりな。あんた始めっから酒臭かったし」
「……私何したんですか」
「知りたい?」
ごくんと唾を飲み、ゆっくりと頷いた。
すると金髪の彼は理由を話す気になってくれたらしく、一つけほんと咳をした。
事の次第はこうだ。
彼が一人で居酒屋に行くと、そこのカウンターに一人でグビグビと飲みまくる女がいたらしい。それが私。私の隣に座った彼は既に酔っ払った私の愚痴を聞かされ、挙げ句終電を逃しタクシーで送ってもらい、そのまま部屋に連れ込んでゴー・トゥー・ヘブン。
「あぁ……」
穴があったら入りたいというのはこういうことだ。彼は何も悪くないじゃないか。酒に付き合わせたのも私、送らせたのも私、部屋に連れ込んだのも私。
「ご、ごめんなさい!ほんっとすいません!」
「いや別にいいけどさ」
「ほんと何て言っていいか……」
普段ならこんなプレーボーイみたいな奴、と思いそうだが今はそんな彼に感謝した。経験豊富そうな人でよかった。
「それにあんた振られたばっかだったんだろ?まぁしょうがないんじゃねーの」
「私そんなことまで話してたの…」
そう、普段あまり飲まない私がなぜ酔っぱらうまで飲んでいたかといえば、居酒屋に入る数時間前に彼氏に振られたからである。そういえば…なんてもう過去の話になるくらいすっかり忘れていた。
「何ていうかもう…すいません。でもありがとうございま…す?」
「何で疑問系なんだよ」
「いや…」
そう言うと、彼はプッと吹き出して笑った。笑った顔初めて見た。
なーんて、まだ会ってから数時間しかたってないんだけど。
……人が笑うのは嬉しいんだけど何か悲しい気もする。
「とりあえずシャワー浴びたら?」
「!あああなた先どうぞ!」
「俺は着替えたら帰るから」
「え、でも」
「また今度、会うときがあったら」
そう言ったときには既に彼は着替え終わっていて、ドアノブに手をかけているとこだった。それじゃあまた。最後に爽やかな笑みを浮かべて部屋を出た彼を、私は茫然と見ることしかできなかった。
だってあまりにも早すぎる展開だったから。見送る暇もなくて。
しかも、そもそもまだまっぱだったしね。
100213