全く、何で用具委員会ってこんなに大変なの?女の私にまでこんな力仕事させるなんて有り得ないわ!

そもそも何で食満と潮江の喧嘩によってできた穴やら凹みやらを私達が修理しなくちゃならないのか。そんなもん勝手に1人でやってくれ。それにあんな少ない予算で学校中修理することが不可能だ。喧嘩するなら自分で直すか予算増やすかどうにかしやがれこの野郎。



「わりぃ」

「だったら喧嘩すんなって………食満?」

「わりぃ、確かにそうだよな。今度からはちゃんと自分でやるよ」



仮にもくのたま最上級生である私が不覚だ。まさかこんなに近くに食満が来ていたのに気付かないなんて。地味に悔しいというか何というか。



「…ま、分かったんなら極力喧嘩は控えてよね」

「だって文次朗が、」

「言い訳しない!はいはい作業の邪魔だからどいてよねー」

「それは俺やるから」



金槌と釘を奪い取ろうとする食満をキッと睨む。一応委員だから頼まれた仕事はやるのよ。それにいつも食満はそれ以上に頑張ってるから、ね。そう言うと食満ははははと笑い、いい委員を持ったなーと頭をわしゃわしゃと撫でてきた。子ども扱いすんな!



「邪魔だよあっち行けー!」

「あぁ、頼むな」



言われなくてもやってるわ!馬鹿にされてムカついた気持ちをぶつけるように、釘をつまみ持ち構えたそこに向かって思い切り金槌を振り下ろした。

その金槌は予定では釘の頭的な部分に辿り着くはずだった、予定では。しかし、あれだ。実は今まで何だかんだ荷物運びぐらいしかしていなかった私には少々デカすぎる仕事だったみたいで。



「あぁぁぁぁぁっ………!」



それは軌道修正する暇もなく数ミリ上にずれたまま私の人差し指へ直撃した。

いてーよハンパなくいてーよぉぉぉお!!こんなことなら普段からちゃんと仕事やってるんだった!

なんてこんな状況下で考えられるわけもなく、私は漫画やアニメで見るような赤く腫れ上がった指を守るようにすっころんだ。痛すぎて言葉も出ない。



「おい!大丈夫か?!」



私の色気の無い叫び声に気付いたのか、食満が慌てて戻ってきた。今の私、最高に格好悪すぎる。食満のこと追い払っといて初歩的な怪我するなんて。は組や小松田さん並のミスだ。



「だ、大丈夫よ…私を舐めんじゃないわよ…!」

「んなわけねぇだろ!」

「だ、大丈夫だもん!アホの食満はあっちにいってろ!」



お願いだからこんな格好悪い私を見ないで欲しい。あぁ恥ずかしい。指がこんなに痛くなかったら今頃顔から火が出ていてもおかしくないくらいだ。



「保健室行くぞ」

「やだよあそこ薬臭いもん」

「じゃあ冷やす」

「無理無理ぶっちゃけ歩けないぐらい指に痛みが集中してるから」

「やっぱ痛いんじゃねーか!」



あ、ミスった。完全墓穴掘っちまったパターンだよ。やっちまったなー!って昔流行ってたギャグを思い出した。



「そんなに嫌がんなら」

「な、何よ……」



食満が険しい顔つきをしてじりじりと詰め寄ってくる。後ろは壁だ。逃げられない。こんな時はどうするか。

一、大人しく捕まる
二、隙を見て逃げる

三つ目を考えたときに思い出した。今煙り玉持ってるじゃん!
そうと決まれば、懐に入れておいた煙り玉を取りだそうとしたそのときだった。



「あぁぁぁぁぁっ……!」

「こうすりゃ治るって聞くよな」

「けけけけまっ…!」



食満留三郎のアンホンダラ!
それは私が懐に手を突っ込んだのとほぼ同時だった。食満は私との距離を30センチないとこまで詰めて、私の腫れ上がった指のある左手首を掴み、そして。



「なななな、なぜ舐めたぁぁぁぁぁ!」



こともあろうにその人差し指舐めやがったのだ。



「舐めて治んのは血が出たときだわバカタレッ!」

「文次郎みたいな言い方すんじゃねぇ。虫酸が走る」

「私が寧ろ走ったわ!」



食満に……指舐められた……有り得ない……。



「あ…そのさ、わり…」



謝るぐらいならすんじゃねーよこの野郎。だいたい放心状態の私に今の謝罪なんか聞こえているわけがないのに。



「つい、さ。なんつーか…」

「……」

「つまりあれだ、お前が好きなんだよ」

「………………………………………………………………は?」

「だから!お前が好きなんだよ!」



未だ距離を詰めたまま一向に離れない食満の顔は私の指と同じくらい真っ赤だった。

そして、私の顔も。



「な…」

「な?」

「何なんだよ食満のバカァァァァァア!」



とりあえず今は走るしかない。気持ちの整理がつかない。

あぁ、頬が熱い。





100212

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