#6


ジュワリ、フライパンに溶いた卵を流し入れる。手早くかき混ぜて、くるりと巻いて。

今日から何故か2つ分に増えてしまったお弁当。同じお弁当なら、毎日もらえるはずなのだからそちらを食べればいいのに。


なんて、ここでぐちぐち溢しても何の意味もない。

やっぱり笹山さんに関わるべきではなかったのだと、昨日の私に言ってあげたいと心底思った入社3日目の朝。







オフィスのドアを開けておはようございますと挨拶をする。本来ならこの時間はまだ誰もいないはずだからただ静寂が広がるだけ、のはずだった。
しかし今朝は違った。なんと明るい声が返ってきたではないですか。

「おう、おはよう!」

サッと目の前に立ったのはニカッと爽やかに笑う男の人。その声の主は加藤団蔵さん、だった。あまりにびっくりしたので目をぱちぱちさせることしかできないでいる私を見て加藤さんは吹き出した。そ、そんなに間抜けな顔をしてたかな。

「あ、あの…」
「ははっ!やっぱりおもしれー奴だな、苗字は」
「おもしろい…、ですか?」

そんなことは初めて言われた。でも一体さっきの会話の中でどこにおもしろい要素があったのか。むむ、わからない。

「だから、そーいうところがおもしれーんだよ」

そーいうところ?

「なんでも素直に捉えるっつーか、なんつーか。アイツに説教垂れてる女なんて初めて見た」
「アイツ?」
「笹山副部長サマ」
「…あの、わたし」
「なに、気にしてんの?大丈夫だって、アイツ苗字のこと気に入ってるし」
「いえ、むしろその逆だと思います…」
「いやいやあれは絶対そうだって。まあただの勘だけどさ」

か、勘…ですか。
でも豪快に笑う加藤さんを見ていたらなんかどうでもよくなってきた。

「そ、そういえば、加藤さんはなんでこんな時間に」
「おう、電車の時間一時間間違えた」
「…」


加藤さんって、謎だ。





「………二人っきりで何してんの」

そこへ聞こえた第三者の声。ああその声の主はわたしが今いちばん苦手とする人物。背中に刺さる視線が痛くて振り向けない。

「よっ、兵太夫」
「お前今すぐ腹壊してトイレ篭って三時間くらい出てこないで」

私の隣まで歩いて来ると、笹山さんは腕を組んで加藤さんを睨み付けた。…これも二人の間のコミュニケーションの取り方?なのかな?うん、そういうことにしておこう。とりあえずお腹痛くなってトイレにずっと篭りたいのは私の方だと主張したい。


ふと、こちらに視線が向いた気がした。ちらりと横を見ればぱちっと目が合う。

「名前、弁当は?」
「いい一応、はい、作ってきました」
「…ちっ、まあいいか」

それなんの舌打ちですか…!

「もし忘れたらどんなお仕置きをしてやろうか色々考えてたのに」
「へ…」
「ははっ、兵ちゃんこわーい」
「失せてお前ほんとお願いだからさ」


え、今なんて、お、お仕置き…?





「あれ、みんな早いね。僕も負けてられないな。おはよう」
「ぶ、ぶちょ…」



はにかみながらこのなんともいえない空気をぶち壊してくれた善法寺部長が神様に見えました。



 



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