#4


「笹山さぁん」

うーわ出たよケバケバ女その3。ちなみにケバケバ女その7までいる。っていうか寄らないで香水臭すぎるんだけど。頭からかぶってんの?それ。しかも体くねくねさせんな軟体動物かお前。あと目の周りぐりぐり黒く塗ってるけど、元の目は小さいんですぅってカミングアウトしてるだけだから。自虐行為お疲れさん。

以上、笹山兵太夫心の声でしたー。
いや、まさかそんなこと言えないでしょ。あ、物理的には言えるよ?だけど本当のこと言っちゃったら色々面倒くさいじゃん。女の逆恨みって怖いしさあ。だから適当に笑顔でも繕っておく。これが一番楽だ。

「ああ君か、何か用?」
「あのぉ、これ、どうぞぉ」

語尾を伸ばすな語尾を。なんでお前みたいな人間がこの会社にいるのか分からない。まあ分かりたくもないけど。

「何?これ」
「えっとぉ、お弁当、ですぅ」

はあ?何勝手に作ってきてんの馬鹿じゃない頭大丈夫?そういうのを有難迷惑っていうんだけど。なんて、またぼんぼん本音が出てきた。でもいくら脳が冴えててもそれとは関係なしに口は動く。あはは、超便利。

「ああ、もらっとく」

少し笑顔を見せれば女はきゃぁきゃぁと叫びながらオフィスを出ていった。あーうるさいうるさい。以前までは聞きなれていた女の甲高い声も今では耳触りなだけ。もらった興味の欠片もない薄ピンクの巾着を適当にそこらへんに押しやって、斜め前に視線を移した。

そこには名前のデスクがある。今は他の新入社員と一緒に社内見学ツアー中らしい。
そんな彼女の、ちゃんと整理された机上を見て思わず頬が緩んだ。名前が、ここにいる。これから、同じ空間に。そう思っただけで心の底から何かがふつふつと沸いてくる気がした。

「笹山ー?」

ぼけーっとしていれば後ろから肩を叩かれた。この無駄とも言える馬鹿力はあいつに決まってる。同僚であり今では部下である、加藤団蔵だ。

「なんだ団蔵」
「いや、もう昼飯の時間だからさ」

指をさされた方に視線を向ければ壁掛け時計は確かに昼休みの時刻を差していた。

「おっそれに苗字も帰ってきたみたいだし…ってあああああ!お前また貰ったのかよ手作り弁当!!」
「うるさい耳元で騒ぐな。欲しかったらやるよこんなもん」
「いやこんなもんて」
「実際僕は食べる気ないし。勿体ないとでも思うならお前が食べればいいだろ」

そう言って団蔵の前に巾着を押しつける。眉を下げる奴を見て、まあ確かに人が貰ったものは食べにくいだろうなと勝手に結論付ける。ならばしょうがない。これはゴミ箱行きだ。

勝手に作ってこられても迷惑以外のなにものでもない。だから別に僕は悪いことをしてるわけではないと思う。オフィスの入り口まで歩いて行って、備え付けられた可燃ゴミの方の籠へ巾着ごと捨てようとした時だった。


「駄目、です」


ワイシャツの袖元をくい、と引かれた。戸惑っているような、それでもちゃんと僕をまっすぐに見上げる瞳とぶつかる。


それだけで、今にも捨てられそうになっていた薄ピンクの巾着は再びゆっくりと僕の手に収まった。







 



BACK

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -