「琉夏くん、朝だよー」
「んー」
「もう、遅刻しちゃうよ!起きよう?」
「んー」
「…はぁ」
だめだこれ。生返事しか返ってこない。
琥一くんはあぁ見えて結構寝起きがいいから一度起こせば起きてくれるんだけど、問題は琉夏くん。
もうこれも何度目だろう。
慣れてしまったからいちいち数えてないけど、絶対10回以上は起こしてる。時計を見ると、あと少しで8時になろうとしていた。
こうなったらあれだ、あれを使おう。
「…あーぁ、琉夏くんのためにせっかく朝ごはん作っ」
「おはようなまえ」
「…ふふっ、おはよう、琉夏くん」
朝ごはんを餌にしたら琉夏くんはそれに見事に食いついて、バッと勢いよく上半身を起こした。
それでもまだ少し眠そうに目を擦っていて、その仕草がなんだか可愛らしくて、つい漏れてしまった笑い声。
それが気にくわなかったのか眉を寄せる琉夏くんに、また笑ってしまった。
「なに笑ってんの」
「うん?なんか可愛いなぁと思って、つい」
「可愛いって言う方が可愛いんだよ」
「なにそのバカって言った方がバカなんだよ!みたいな切り返し」
「だって本当のことだし?なまえが可愛いからさぁ」
余裕の表情で見つめられて、なんだか恥ずかしくなってきた。
顔に熱が集まる前に、早くここから逃げ出したい。
「じっ、じゃあ私は先に下に行ってるから、琉夏くんも後で…っ」
あわてて振り返ろうとして失敗。
琉夏くんに抱きすくめられた私は固まったまま、ただ琉夏くんの体温を感じていた。
寝起きだからか、すごくあったかい。
「耳まで真っ赤」
「だ、だって琉夏くんが…」
「うん、俺が?」
「…可愛いとか、言うから」
「あー、そういうところが可愛いんだって。もしかしてわざと?」
「は、はぁ?なにが」
「ま、なまえがそんな器用なこと出来るわけないから、わざとじゃないんだろうけど」
琉夏くんがそう言って笑ったとき、私の耳に息がかかって、ぴくりと反応してしまった。
「あー。もうさ、なまえの言動すべてが計算なんじゃないかってくらいに可愛いから困るんだよね、俺」
「な、なに意味がわからないこと…って、ちょっと待って、なんで私ベッドに引きずり込まれそうになってるのよ!」
「なまえが可愛いから」
「いや、それもはや理由になってな…っ」
「黙って、ね?」
琉夏くんの顔が近づいたと思ったら、降ってきた口づけ。
それにびっくりして琉夏くんの服をぎゅっと掴むと、琉夏くんが笑ったのが雰囲気で分かった。
すぐにその手もゆっくりと絡め取られて、体はベッドにそっと押し倒される。
その間に、キスは深いものに変わっていた。
「…っん、はぁ…っ、るか、く」
「ん?」
「くる…し、…んっ」
「……、よし」
やっと離れてくれたと思ったら、満足そうに笑う琉夏くんの顔が見えた。
その笑顔の理由を聞きたくても、私は酸素を求めて呼吸を繰り返すことにまだ必死で。
問うように琉夏くんを見上げたら、彼は私の右手を取って、薬指にキスをした。
その時感じた、違和感。
「……え?」
びっくりして私も薬指をまじまじと見る。
すると。
そこには、ついさっきまではなかったモノが、きらきらと輝きを放っていたのだった。
「る、か、くん…、これっ」
「それ、予約だから」
「え…?」
「いつか、こっちに嵌める日が来るまでの、予約」
琉夏くんはゆっくりとそう言って、今度は私の左手の薬指をトントンと撫でる。
その手つきが、本当に優しくて。
「…ねぇ、琉夏くん。どうしよう」
「なに、そんなに泣きながら笑って」
「…私、幸せすぎて死んじゃいそう」
「えー、それは俺が困るからだーめ」
指輪を眺めながら呟くと、悪戯が成功したかのように笑う琉夏くんに抱きしめられた。
そうしたら、胸がきゅぅと甘く鳴って。
涙でぼやける視界の先で微笑む琉夏くんの背中に、腕をまわした。
「…琉夏くん、大好き」
「じゃあ俺はその2倍好き」
腕の中で呟いた感謝の言葉に、琉夏くんは笑いながら返事をくれた。
それが本当に幸せで、つい「今日は遅刻してもいいかな」なんて思ってしまったのは秘密。
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琉夏くんは基本王子キャラで固定されてます(私の脳内で)
気障な台詞も甘えた口調も琉夏だからこそサマになるね
実は喧嘩が強いっていうのも乙女のキュンポイント(なんぞ)
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