ジグザグのち、まっすぐ




すがすがしい朝だ。

…いや、曇り空だけどね。




いつもより、どこかすっきりした気持ちで目覚めた。

気の持ちようで、こんなにも変わるんだ。


昨晩、文次郎先輩に会ってお話したことを思い出す。


「素直に、かぁ」


自分の気持ちに正直になるのって、簡単なようで難しいと思う。

でも、きっとこのままではダメだから。

どうせ喜八郎君も、自分の気持ちに正直に動いてるんだろうから、私だってそうさせてもらう。


一度ぐぅっと背伸びをしてから、よし、と気合を入れたところで、隣の布団がもぞりと動いた。

どうやら凜ちゃんもお目ざめのようです。





***






「なにがどうなってそうなったのか分からないけど、まぁいいんじゃない」


朝の食堂にて。
あくびを噛み殺しながら美味しい定食を咀嚼する凜ちゃんに、私の今の心境…もとい、決意を伝えた。


「うん。色々考え過ぎてわけわかんなくなって、やけっぱちになってるだけかもしれないんだけどね?」


苦笑しながら、私も箸を動かす。

昨晩の出来事も包み隠さず話すと、凜ちゃんも文次郎先輩の言い分が予想外だったのか、目を丸くして「へぇ」と呟いた。


「それでね、私なりに考えてみたの。相手の気持ちを考えるのも、もちろん大事なことだと思うけど、喜八郎くんに関しては例外っていうか。元々考えてること分かりにくい人だし。まぁはっきり分かってることはあるにはあるけど…、一度、それを考えずに行動してみようと思って」

「ふぅん。…綾部、ねぇ。とうとう好きって認めるんだ?」


面白そうに口元を緩めた凜ちゃんに、私は少し照れくさくなっていじける振りをする。


「う、うん。悪い?」

「別に誰も悪いなんて言ってないじゃない。ただ私はあんな不可思議人間はおすすめしないってだけで」


だって本当に何考えてるかわからないじゃない、と笑いながら言った凜ちゃんは、その後すぐ真顔になってこう続けた。


「私はね、名前が幸せなら、なんだっていいのよ」


私の過去を知っているからか、凜ちゃんは私のことを大切に思ってくれている。

それはきっと私のうぬぼれなんかではなくて。


天の邪鬼だし、冷たく見られがちだけど、本当は誰よりも心配性で優しい子だってことを、私は知ってるんだ。


「私は毎日幸せだよ。…ふふ、ありがと、凜ちゃん。だいすき」

「…はいはい、あっちに向かって言ってやんな」


今度は凜ちゃんが照れくさくなったのか、少し耳を赤らめながらも、ぶっきらぼうに顎をくいっと私の背後めがけて突き出した。

反射的に振り向くと、三列向こうの長机に、喜八郎くん達の姿が見えた。


…っていうか、うん。

こっち見てる。

喜八郎くんこっち見てる!!


「うわぁぁぁ…!」

彼と目が合った瞬間に慌ててぐるんと前を向き直した私が面白かったのか、凜ちゃんはくすくすと笑いながら味噌汁に手をつけた。


「ま、がんばんなさい。話ならいつでも聞いてあげるから」


「あ、ありがと」


強張った笑顔のまま、少し速まった心臓の鼓動をどうにか平常速度にまで戻そうと軽く深呼吸する。


目が合っただけで動揺しているようじゃ、先行きは不安でしかないけれど。



これからは自分の気持ちに、すなおに。真っ直ぐに。

喜八郎くんと接してみたいと思う。





 



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