真夜中の恋愛相談




喜八郎くんの、ホントのきもち。

それについて考えてたらなんだか眠れなくて、真夜中にもそりと体を起こした。

学園はしんと静まり返っていて、時々風に揺れる葉がこすれる音が聞こえる。

障子越しに月明かりがぼんやりと見えた。随分明るいから今夜は満月なんだろう。どうやらしばらく寝付けそうもないから、ちょっと夜のお散歩にでもいこうかな、と思いついてそっと部屋を出る。

隣に敷いてある布団を横目に見れば、凜ちゃんは気持ちよさそうにすぅすぅと寝息を立てていた。





"ホントのきもちに気付いてやりなよ"


凜ちゃんの言葉が頭を駆け巡る。


「ほんとのきもち、って言われてもなぁ…。直接キライ、って言われたし」

夜の学園をとぼとぼと歩きながら、ため息。
なんだか自分で言っててむなしい。
好きな人からキライって言われてることを再確認しなきゃならないなんて、むなしすぎる。

そう。
私は、喜八郎くんを"すき"で。
喜八郎くんは、私を"きらい"で。

どう考えたって、私の一方的な片思いだ。
しかも、普通の片思いより分が悪い。既に嫌われてるんだから。


あぁ、あんなにいじめられてばっかりだったのに。
いつの間に、こんなにすきになっちゃったんだろう。

「…オイ」

もしかして、私ってやっぱりドMだったのかな!?

「お前」

えぇ…まさかこんな形で自分の新たな一面とこんにちはする羽目になるなんて…。


「って無視してんじゃねぇ!」
「ひゃぁ!な、なに!?」


頭を悩ませながら歩いていたら、すぐ目の前から突然怒鳴り声が聞こえた。
わ、わぁ、びっくりした…!


「さっきから声をかけても何の反応もなしとは、お前はそれでもくのたまの端くれか!」
「あ、す、すみません。考え事をしていたもので…って、端くれってちょっと酷くないですか」

確かに、私は凜ちゃんみたいに文武両道じゃないけど。

ちょこっとだけ抗議の視線を向けるも、やすやすと跳ねのけられる。


「ふん。仮にも忍を目指す者ならば常に周りの状況を把握しておくことだ」

腕を組んでそっぽを向いた忍たまの制服の色は、緑。
ということは、六年生かぁ。

そういえば、夜中まで自主練習を続けている忍たまの先輩がいるとかいないとか、凜ちゃんが言ってたな。確か…しお、潮江…

「潮江文太郎先輩、ですか?」

記憶を辿ってなんとかその名前を紡ぎだすと、何処からか吹きだすような音が聞こえた気がした。
不思議に思って周りを見渡しても人影はおろか人の気配もなく、どうせ私の勘違いだろうと気を取り直して、目の前の先輩に視線を戻した。


「…郎だ」
「?」
「…文次郎だ」
「えっ!あっ、す、すみません!」

間違えた…!
太郎じゃなくて次郎だった!

名前を間違えるなんてものすごく失礼なことだよね?
うわぁ、どうしよう。
ただ散歩がしたくてふらふらと出歩いていただけなのに、とんだ事になってしまった。

「も、文次郎先輩、ですよね。ごめんなさい!」

身体を直角に折り曲げて謝罪すると、別に気にしていないから顔を上げろという言葉が降ってきた。
それを聞いて恐る恐る顔を上げると、ものすごく怖い顔で見下ろされていた。

「ひっ…、やっぱり怒りますよねそりゃぁ!本当に申し訳ありませ…」
「勘違いするな元からこういう顔だ!!」
「…お、怒ってないですか?」
「だからもういいと言っているだろう」

ため息交じりにそう言われて、思わずしょんぼりしてしまった。
なんだか私が一人で勝手に暴走してただけみたい。

「そんなことより、女子がこんな夜中に一人で出歩くもんじゃねぇぞ」

ブツブツ呟いてたし、何か悩み事でもあるのか?

鍛練の途中だっただろう手を止め、手ぬぐいで汗をぬぐいながら、文次郎先輩はそう問いかけてきた。

それがすごく意外で、目を丸くしてしまう。
人は見た目じゃ判断できないとは良く言ったものだ。


「あ…の、考え事をしていたら寝られなくて」

それで、夜のお散歩にでも行こうかと…

話し始めたのはいいんだけど、どんどん言葉が萎んでいって、ついに無言になってしまった。

決して、文次郎先輩に恋愛相談したところで果たして助言を貰えるのかどうかちょっぴり疑問に思ったからではない。うん。

「お前、名前は」
「あっ、申し遅れました。くのたま4年の名前です」
「あー…何となく分かった」
「えっ?」
「仙蔵の奴が色々話していたからな」

そう言って、ふとある空間の一点を睨みつけるように見上げる文次郎先輩に気づかないまま、私はうなだれる。

あのドS先輩め…!
これ以上話を広めてどうしようっていうんです!絶対楽しんでるでしょう!


「俺は色恋沙汰なんか興味ねぇし、面白いともなんとも思わんがな」

手拭いを首にかけながら、素っ気なく話し始めた文次郎先輩。


「相手の気持ちなんざ二の次にして、まずは自分の感情に素直に行動すりゃいい」

そうすりゃ結果は勝手に付いてくるもんだ。


その言葉を聞いて目を丸くする私の頭に、ポンと大きい手のひらが置かれてぐしゃぐしゃとかき回される。


「わ、文次郎せんぱ」
「なんだ、悩みは解決したか」
「…っ、はいっ」


文次郎先輩は正直でまっすぐな人だ。ほんと、羨ましいほどに。

ウジウジ悩んでいたさっきまでの自分がなんだか馬鹿らしく思えてきて苦笑したくなった。

喜八郎君が、私のことを嫌いだったとしても。
私は、喜八郎君が好き。
その事実はどうやっても変えられない。

それに気付かせてくれた文次郎先輩。

「ありがとうございました、先輩」

尊敬の眼差しを向けながらおやすみなさいの挨拶をしようとした別れ際に、共に鍛錬するか!とギラギラした目で誘われたけど、丁重にお断りした。



「つまらん奴だ。…ギンギーン!」
「…おやすみなさい」



つまらなくてすみません。
っていうか、まだやるんだ…。




 



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