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ある朝のこと

大山と日向の部屋の扉をノックしようとしたら、その前に扉が開いた。半歩下がると、扉から顔を出したのは日向だった。

「おっ藤巻か…こんな朝早くに奇遇だな」
「奇遇じゃねぇ。大山に会いに来たんだよ」
「はいはい。あいつなかなか起きねぇからお前が起こしてやれよ。俺はトイレ行ってくるから」

日向はそう言って、鼻歌を歌いながら俺の前を通り過ぎていく。開けたままになっていた扉から部屋に入ると、大山はベッドで寝ていた。日向に言われたとおりに大山を起こすことにする。布団を引き剥がすなんて色気のない起こし方なんて無粋だろうな。ベッドに腰掛け大山の顔を覗くと、大山は深く息をしていて起きそうにない。

「おい、大山」

ここで起きられては面白くないから、一応小さく声をかける。大山が反応しないのを確認してから厚めの前髪を指でかき分け、額と瞼にキスをする。それでも大山は全く動かず、起きる気配はない。唇をなぞってみたり頬に触れてみたり。終いには頬を軽くつついてみたものの変化はない。

「まだ起きねぇか」

この調子だと唇にキスしても気付かなそうだ。大山にバレたら怒られるだろう。俺は少し考えてから、ベッドに手をついた。こんな機会なんてそんなにあるものじゃないし。顔を近付けると大山の前髪がくすぐったい。大山の柔らかい唇に軽く触れる。

「う…」

俺がゆっくりと唇を離すと、大山は眉間に皺を寄せる。キスされたことに気付いたのだろうか。起きた時の大山がどんな顔をするのか楽しみではある。

「大山…」

起きるかと思いきや大山は反対側に寝返りを打つと、また規則正しく息をし始めた。

「くそ…なんだよ」

嫌がられているようで悔しい。起きてる時でも嫌がられたりするのに、寝ている時までもそうなのかよ。

「大山、いい加減起きろ」

耳元でそう囁くと、大山は唸りながらゆっくりと目を開ける。

「ん…」
「おはよう」

そう言う俺を一瞥してから、おはようと途切れ途切れに小さく言うと大山は再び目を閉じた。

「おいおい…二度寝かよ」

俺はもう一度大山の前髪をかき分け、今度はデコピンを食らわす。いい音がした。痛いだろうな。

「痛っ」

大山は額を押さえ、やっと目を開けた。

「お前がなかなか起きねーのが悪いんだよ」

まだ寝ぼけているのか大山は眠たそうな目で俺を見る。

「あれー…僕藤巻くんと寝てたっけ…」
「いや、お前の部屋に来てるだけだ」
「んー…もっと寝たいよ」

大山はもう一度目を閉じる。まだ寝る気なのか。

「てめぇ…俺が会いに来てやったのになんだよ」

俺の言葉なんて聞こえていないように、大山は動かない。

「大山…好きだ」

ぽつりと言った言葉に大山はゆっくり目を開ける。

「…」
「どうした」

初めて俺が目の前にいることに気付いたように、大山は俺を見つめる。

「なんで藤巻くんが…」
「さっき言ったじゃねぇか」
「というか朝っぱらから近いよ!」

大山は俺を押し返そうとする。俺は起きあがろうと手をついたが、いいことを思いついてやめた。

「おはようのチューしようぜ」
「えぇっ」

大山は顔を一気に赤くして、焦り始める。

「いっ、いやだ」

顔を背けられたらなら、必然的に首筋にキスをすることになる。

「っ…やめ」

扉を開ける音がした。聞き覚えのある鼻歌と共に。

「ただいま…ってうぉ!」

日向のことをすっかり忘れていた。別に日向が悪いわけではないが、行き場のない怒りを感じて思わず日向を睨みつける。

「俺が帰って来るかもしれないのにあんまりいちゃつくなよ!」
「忘れてたんだよ」
「いちゃついてるんじゃなくて僕が襲われてるんだよ!」

俺は心の中で溜め息をつく。おはようのチューはお預けになった。





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