告白は相手の気持ちを少なからず無視した行為だと思っている。自分が好きでいるだけでは満足せず、相手にも好きだと言ってもらいたいと言うのは。
「あの、好きです!付き合ってください」
名前も知らないその子は顔を赤らめてそう言った。
「あー…悪い…」
その子は俺の言葉を聞くと俯く。俺達の間には気まずい雰囲気が流れる。それに耐えられなくなったのか、その子はすみませんと小さく呟くと走っていってしまった。その俯いている背中を見送る。走っていった先には友達なのか数人の女の子がいて、走ってきた彼女の肩を抱く。慰めているんだろうか。よくできている、と思った。NPCだとわかっているのに俺は罪悪感を感じていた。NPCだと知らない人間と恋愛させて俺達を満足させようってことなんだろうが、リアルすぎてNPCとわかっていても好きになってしまうやつがいるんじゃないだろうか。
溜め息をついて、彼女が走っていった方向とは逆に歩き出す。苦手だった。告白されるのは。断る時の罪悪感なんてそう何度も味わいたいものじゃない。まずなんで俺なんかに惚れるんだろうかと思う。ゆりっぺが「女の子は悪そうなやつに惹かれることがあるのよ」と言っていたことをふと思い出す。そういう女の気持ちが俺にはよくわからなかった。
でもさっきの子が俺が誰を好きなのかを知ったら、なんで好きなのかと疑問に思うかもしれない。俺が好きなのは俺とは全くタイプが違う、この世界でなければなんの接点もなかっただろう奴。自分のことをなんの取り柄も無いなんて思っているけど、俺にとっては全てになっていた奴。
なんで惚れたのかなんてわからない。人を好きになるのに理由なんてないということなら、NPCが俺の事を好きになった理由もわからなくはない。
「藤巻くん!」
急に話しかけられて顔を上げる。
「…大山か」
考え事をしていたから、気付かなかった。
「校長室に行くの?」
「ああ」
「じゃあ一緒に行こうよ」
大山は俺の隣に来て歩き出す。
「…俺告白されたんだけどよ」
俺はカマをかけてみたくなって告白された話を大山に振る。大山は気付かないだろう。そうわかっていても、少しの期待をしてしまう。
「えぇっ!誰に?SSSの誰か?」
「ちげーよ。NPCにだ」
「そうかー」
大山はうらやましいな、と言った。
「誰かに好意をもってもらえることはいいことだと思うよ」
大山は笑顔でそんなことを言う。俺は大山から目を逸らす。大山を見てられなかった。お前は全然わかってない。お前だって好意を向けられているじゃないか。それに好きじゃない相手に好かれても意味がないんだ。俺は好きなやつに好きになってほしい。大山、お前に。
「本当に好きなやつに好かれねぇと意味ねえよ」
呟いた言葉の本当の意味を、大山でなければ気付いたかもしれない。
「藤巻くんって好きな人いるんだ?」
大山にとっては純粋な質問。俺には答えられない質問。黙っていることしかできなかった。
「あ、そういうことは聞かない方がいいよね。僕そういうところ気利かなくて」
あはは、と少し困ったような顔で笑う。
そうやって俺の好意に全く気付かない所もひっくるめて好きだ。でもそんな大山を好きになればなるほど俺は自分を偽ることになって、大山を遠ざけていることがわかる。今だって目の前にいる大山を抱きしめたくてたまらないくらいなのに、俺はなんでもないように装っている。大山が俺のことをどう思っているのかなんて考えなくてもわかる。友達、というたった二文字の言葉で括られるような単純なものだ。友達だと思っていた奴に告白なんてされたら、大山はどう思うだろうか。裏切られたって、そんな思いはさせたくない。それを考えただけで俺は大山に向かって好きだと言う言葉を言えなくなる。
俺が好きだったらそれだけでいい、と表層だけならいくらだって繕えると思っていた。でもやっぱりうまくいかなくなった。愛したら、愛されたくなっていつの間にか見返りを求めるようになった。それでも、俺には大山の気持ちを無視して告白することなんてできない。こんなに重くて、俺を苦しめているような感情を大山に押し付け、その上答えを出させるようなことはできない。