「オペレーションスタート!」
ゆりっぺさんの声が体育館に高らかに響いた。ゆりっぺさんの言葉を聞いたSSSメンバーは散り散りになって体育館から出て行く。自分がすべきことをこれから始めるのだ。私はそんなSSSメンバーをぼんやりと眺めていた。
「遊佐さん」
私が声のする方に顔を向けると、体育館のステージに腕を組み足を組み座っていたゆりっぺさんがスカートを翻してステージから降りる所だった。
「はい。何でしょう、ゆりっぺさん」
ゆりっぺさんはスカートを払ってから、私の方に歩いてくる。
「今日は人数の割にあなたは大変じゃないから。あたしとずっと一緒にいて」
「わかりました」
私の言葉を聞くと、ゆりっぺさんは満足そうに頷く。私に伝えることはもうないのか、ゆりっぺさんの視線は体育館を出ていく人たちに移った。
「あの、ゆりっぺさん」
私は思わずゆりっぺさんを呼んでいた。それは私の心の奥にある、ある感情のせい。
「ん?何?」
ゆりっぺさんの意識は再び私に向けられる。ゆりっぺさんの揃えられた前髪がまばたきをすると揺れる。それを見ていたら言葉がなかなか出てこくなる。ドキドキして、でも、多分、それは表情には出ていないんだろう。私は無表情でゆりっぺさんを呼び止めて、変な子だと思われているのかもしれない。
「遊佐さん?」
「私はゆりっぺさんのこと、割と、好きです」
私はもっと気の利いた台詞を考えていたような気がするのに。
「…急に脈絡もなくどうしたの?しかも割とって何よ」
「照れ隠しだと思ってください」
結局私は言い訳をしてしまった。ゆりっぺさんはそうね、と宙を眺める。何を考えているのだろう。
「あたしも遊佐のこと好きよ。割と!」
ゆりっぺさんはたまに見せるいたずらっ子のような表情でそう言った。私はどう返事をしようか、思いつかなくてゆりっぺさんの緑の瞳を見つめる。ゆりっぺさんはそんな私の手を掴んだ。
「さあ、あたし達も行きましょう」
ゆりっぺさんはニコッと笑い、歩き出す。私はゆりっぺさんに引っ張られる形になって、少し慌てる。
私の精一杯の告白だったのに、ゆりっぺさんは本気にしていないみたいだ。よく無表情だなんていわれるけれど、もう少し感情が表に出ればゆりっぺさんは本気にしてくれただろうか。でも、それでもいいかなと思えているのは今私が一番近くにいるから。オペレーションの時だけはゆりっぺさんは私を頼ってくれるから。
そんなことを、ゆりっぺさんに引かれた手を見ながら思った。ゆりっぺさんは前を向いているし、自分の顔は見れないけれど私はさっきのゆりっぺさんのように笑っているんだろう。