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にゃあ。なおおやまくん。

keyコーヒー。それは何故か繰り返し買ってしまう味だった。ゆりっぺに最初に貰ったからかもしれない。他の飲み物は買う気になれなかったから、いつもこればっかり買っている。俺は期間限定やら地域限定やらにはつられない。そんなことを思いながらコーヒーを口に含む。美味しいのかそうでないのかと聞かれれば美味しい。
今は授業中だからNPCはいないし、SSSのメンバーも見当たらないし静かだった。

「藤巻くん!」

コーヒーを半分ほど飲み終わった頃、大山の声がした。しかし振り向くと誰もいない。確かに大山の声がしたと思ったんだが。俺のことを藤巻くんなんて呼ぶやつはそんなにいないし、大体俺が大山の声を聞き間違えるはずない。キョロキョロと辺りを見回すと、一つ向こうにある柱から手が出ていてこちらに向かって手を振っているのを見つけた。俺以外に他に誰もいないから、俺に向かって手を振っているんだろう。あれが大山だろうか。

「何やってんだ」

俺がそう声をかけてやってるのに大山だろうその手の主は顔を出そうとしない。

「大山なんだけど…」
「わかってるよ」

大山はやっとそろそろと柱から足を出す。じれったい。やっと顔を出したと思ったら、その姿に思わずコーヒーを落としそうになる。

「…可愛らしいもん付けてんじゃねぇか」

としか言葉が出てこなかった。

「可愛くない!」

そうやって怒る大山の頭には猫の耳のようなものが付いていた。俺はそのまま大山の頭をずっと見つめる。

「なんかのサービスか?」

考えて出た言葉はこんなものだった。

「違うよ!」

そう言うと大山は俯いた。大山が違うといっても、俺にとってはサービス以外の何ものでもない。






近くにあったベンチに腰掛け、大山の話を聞く。朝起きたら頭に猫耳が付いていたらしい。昨日はいつも通りに寝たし、何もしてないと大山は言う。

「誰にも会わずに藤巻くんを探すの苦労したんだよ!藤巻くんが部屋にいなかった時はどうしようかと思った」

見られたら恥ずかしいよね、こんなのと言いながら大山は自分の頭に付いている猫耳を触っている。誰にも見られないように俺に会いに来たなんてかわいいじゃねぇか。まあこれを口にしたらいわゆる猫パンチを食らうことになるんだろうな。それにどこかに逃げていってしまうかもしれないから言うのはやめておく。
隣にいる大山の頭に出現したという猫の耳のようなものに触れてみる。触ったらエロい感じにふにゃふにゃにならねぇかな、とか少しの期待をして。耳は大山の髪の色と同じで暗めの茶色をしている。ふわふわとした毛がくすぐったい。本当に猫の耳のようだった。

「これからどうしよう…にゃあ。」

特に期待していたような変化は無い。残念だ。しかしさっき大山は聞き捨てならないことを言わなかったか。

「にゃあ?」
「あっ」

大山は手で口を塞ぐ。

「こっこれは!気を抜くと口が勝手に…」

猫化しているのは猫耳の部分だけではないらしい。語尾ににゃあ。なんてなかなか可愛げでありだな。大山には言えないが。

「他になんか気づいた所ねぇのか?」
「他?他は特に…」

と言ってるそばからなんか不自然に手が丸まっている。丁度猫の手のように。思わず大山の手を掴む。

「なに?」
「なんだ。この手は」
「えっ」

大山は手を開いたり閉じたり。

「猫っぽいかな?」
「ああ。すごくな」
「もう、知らないよ…」

俺を見上げる大山は半泣きになっている。俺がいじめてる気になってきた。

「わりぃ。泣くなって」
「泣いてないよ!にゃ…」

そこまで言うと、大山は大きな溜め息をついた。俺は持っていたコーヒーを差し出す。

「ありがとう」

大山はニコッと笑ってkeyコーヒーを受け取る。

「あ!間接キスだね」

大山はそう言ってコーヒーを一口飲んだ。

「間接キスなんて今さらだけどな…もっとすごいのするか?」
「いや、今は遠慮しとくよ」

大山が少し遠ざかる。今このままどこかに逃げていってしまうと困るのでこれ以上はやめておく。

「でもさあ、ずっとこのままだったらどうしよう…」
「別にいいんじゃねぇか」
「なんだって?」
「かわいいしな」
「冗談はやめてよ…笑えないからさあ。にゃあ。ああ〜」

大山は肩を落とす。大山はよく気が抜けているようだ。

「俺も語尾ににゃあってつけてやるよ」
「それはいいや」

大山は朗らかに笑いながら言う。

「てめぇ…即答すんなよ」
「わっ!でもだって!」

大山の肩に腕を回す。大山は慌てながら、俺の顔をちらちらと覗く。別に本気で怒ってる訳じゃない。大山のことが好きだからついからかってしまうだけだ。ふと横を見ると目の前に猫耳があった。肩に回していた腕は無意識に大山の頭に移動する。大山の頭を撫でるといつもはない猫耳が交互に伏せられる。

「俺さ、お前のこと犬っぽいと思ってたんだけどよ」
「え?」
「でも猫もいいぜ。似合ってるよ」

俺が頭を撫でながらそう言うと大山は何か言いたそうな顔をしたが、目を伏せると何も言わなかった。俺の方は大山の頭を撫でるのが止まらない。

「藤巻くんやめてよ…」

そんなことを言いつつも、俺に大人しく頭を撫でられている大山がたまらなく愛しい。

「ちゃんと元に戻る方法考えてね」
「ああ」

俺は大山の頭を撫でるのに夢中で、特に何も考えず返事をしていた。





これ、続くのか?




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