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康太と久保

「吉井くんの写真が欲しいんだ」

久保にそう話しかけられた俺は、何でもない風に自分を装って頷く。明久の写真、ね。久保にこうやって話しかけられるのは何度目なんだろう。複雑な気持ちで明久の写真を探す。なるべく良く写ってないのを。でもそんなの見つからない。そういうのはまず手元に置いておかないし、なにより俺が撮った写真で良く撮れていないものはほとんどないから。久保にあんまり選んでいるのを悟られないようにしなければならないのに、俺はどれを渡すべきかたらたら悩んでいた。仕方なく渡すのは俺の好みじゃない写真。それでも、写真の中の女装した明久は可愛いと思った。

「………1000円」
「ありがとう」

久保は笑って、1000円札を俺に差し出す。その笑顔が眩しくて、俺は少し目を伏せた。恋してるんだ。明久に。端から見れば写真を買うなんて不純だと思うかもしれない、でも元にあるのは純粋に明久を好きだって気持ちじゃないのか。
俺だって純粋に久保のことが好きだ。なのに、久保みたいに俺は笑えない。俺の気持ちは真っ直ぐじゃなくてもっと曲がってる。



あれは本当は500円の写真だった。高くして売ってしまったのは、もしかしたら1000円なら買わないでくれるかと思ったから。でも久保はなんの疑いもなくすぐに1000円を差し出した。俺は顔には出さなかったけど、傷付いた。でも1000円より高くしなかったのは、それで買われてしまったら本当にもう望みがないような気がしたから。俺は久保に1000円より高く写真を売れないし、それより安くもできない。久保に写真を売る度に買わないでくれないかっていう淡い期待をして、買われる度に俺は傷付いている。
あいつも俺も叶わない恋をしている。久保は俺に思われていることを知らない。思われていることを知らないから人を傷つけている。
久保の置いていった1000円札を見つめる。なかなか使えないんだ。この1000円札。俺の財布には1000円札が増えていって、なかなか減らない。そんな自分が嫌いだった。




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