稲妻11 | ナノ

すれ違う

テレビにすごくかわいい子が出てた。俺のすごくタイプだったから、かわいいって言った。何度も。素直な気持ちだった。ほとんど無意識に口からかわいいって出てたんだ。
それからだ。こいつの機嫌が悪いのは。いくら俺が話しかけても、素っ気ない返事ばかりしやがる。もしかして原因はあれなのか。いやいやそれはあまりにも俺の自意識過剰じゃないだろうか。俺が女の子をほめたから、妬いたなんて。

「おい、吹雪」
「なに」
「菓子かなんか食うか」
「いい」

なんで俺がこいつのご機嫌取りなんかしてるんだ。アホらしい。でもこいつがこんなんだと調子狂う。から、これは自分のためにしてることだ。さっきからあの手この手で話しかけているのも全部。でも、もうそろそろ機嫌を直してもいい頃じゃないのかと思う。

「お前いい加減にしろよ」
「なにが」

吹雪はこちらを見ようともしない。段々俺はイライラしてきて、遠回りなことをするのが面倒になっていた。

「機嫌、なんで悪いんだよ」
「わかってないの」

思い当たらない訳ではないが、もし間違っていた時に恥ずかしい思いをするのは俺だ。それはなんとしてでも避けたい。
俺が何も言わないのを肯定ととったらしい。吹雪は少し怒ったように、俺に向き直った。

「染岡くんは、僕のことだけかわいいって思えばいいのに」

そう言うと吹雪はそっぽを向いた。やっぱりあれなのか。

「俺はお前がうらやましいよ」
「どうして」
「素直だからだ」

俺がお前みたいに好きな相手に素直になれたら、お前は幸せかもしれない。でもお前が好きになった俺は、素直になれないやつなんだ。本当は、もっと自分が愛されてるって実感を持てるやつがいいんじゃないのか。本当に、俺でいいのか。
俺が考え込んだことを、怒ったと思ったのだろうか。吹雪は申し訳なさそうに、ぽつりと言った。

「ごめんね」
「なにがだ」

吹雪は俺から視線を外した。その横顔は何故か寂しそうで、俺は不安になる。

「染岡くんが料理がうまい子が好きなんだったら料理がんばるし、大人しい子が好きだったら、静かにするように努力する」

「でも、僕は女の子だけにはなれないんだ」

そう言うと、吹雪は俯いてしまった。
違う。吹雪は別に俺のために自分を変えなくてもいい。俺は今の吹雪が好きだから。謝らないといけないのは俺の方だ。俺でいいのかなんて、聞かないでもわかることだろ。なんでそんなことを考えてるんだ。そんな暇があるんだったら、俺は吹雪に言ってやるべきだ。俺もお前だけが好きだってこと。

「可愛いってのは別に好きって意味じゃねぇだろ。確かに少しは好きだけど」
「やっぱり…」

吹雪は顔を上げようとしていたのに、また俯いてしまった。少しって言ってるだろうが。

「本当に好きなのは…いや、愛してるって言うのか。なのは!お前だけだ」

吹雪は俺の顔を少し凝視してから、気付いたようにパッと目をそらした。白い頬が赤く染まってゆく。自分が恥ずかしいことを言うのは全然構わないのに、言われるのには慣れてないんだろうな。それにしても愛してる、なんてくさい言葉俺が使うなんて思わなかった。多分もう一生言わない。




人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -