なんであいつが俺のことを好きだっていうのかわからない。あいつは男の俺から見ても見た目はいいと思うし、実際に女の子にモテるのになんで男の俺を選んだんだ。少しの気の迷いか何かなのなら、早く目を覚ましてほしい。
「あの、吹雪くんちょっといいかな」
俺は知らない女の子だった。告白か。吹雪と一緒にいると何度となくこういう場面に出くわすことになる。少し心が痛むが、俺はお邪魔ってことだ。
「向こうで待ってる」
「ごめんね、染岡くん」
なんでこいつは謝るんだ。口には出さないが、いつも思っていることだった。
女の子はトボトボと吹雪とは反対に歩いていく。失恋、か。可愛そうに。夕日も相まって切なさが背中からにじみ出ていた。こっちに歩いてくる吹雪も浮かない顔をしている。なんでお前がそんな顔するんだ。お前が失恋したみたいじゃないか。
「馬鹿だなお前って」
「なんで?」
「さっきの子と付き合えばよかったじゃねーか。そんな顔するんだったらさ」
予想外だった。怒ると思ったのに、吹雪は目を伏せて首をうなだれた。
「あの子の気持ちも痛いほどわかるよ。僕も同じだから」
同じ。それは俺に向かって言ってるんだ。吹雪があの子にしたことも、俺が吹雪にしていることも同じようなもんだって。俺は溜め息をつく。俺がお前の立場だったら男なんて眼中にないね。どうしても男を好きにならなければいけなかったとしても、俺は絶対に選ばない。
「こんな粗暴だし、柄のわりーやつのことなんかなんでお前は好きになってるんだよ」
普通にしてたら女の子と普通に恋愛して、恋に悩むことなんて無かったんじゃないのか。こんな男のこと好きになる寄り道なんてしなければ。
「染岡くんは、自分で思ってるよりずっとかっこよくて、優しい人だよ」
口調が強まっていた。俺のことにムキになるなよ。かっこよくて優しいなんてどこの誰だ。お前は俺を過大評価し過ぎてる。
「僕の好きな人を、けなさないでほしいな」
本人を前にしてよくそんなことが言えるな。そんなことを言われたのが女の子だったら、吹雪のことを好きになるんだろうか。でも生憎俺は普通の男だから。ごめんな。
少し前を歩く吹雪の後ろ姿はなんだか寂しそうで、同じだった。さっきの子と。なんだ。俺のせいだってお前は言いたいのかよ。
今その後ろ姿を抱き締めたら、お前は元気になるだろうか、なんてアホなことを俺は少しだけ考えた。