稲妻11 | ナノ

雨の日

綱海さんの口から溜め息が漏れた。俺はそれを唇の動きから感じた。溜め息の音は朝からずっと聞こえている雨音のせいで聞き取れない。それはいい。聞こえていたなら、俺は綱海さんに溜め息の理由をしつこく問い詰めるだろうから。



今日、練習は休みになった。それは休み、とは言われているものの自主練習と同義だった。俺達も例外ではないから練習をしなければいけないのだけれど、綱海さんは俺の部屋にいる。
それは一時間ほど前のことだ。どう練習をしようかとボールを手の中で弄んでいると、綱海さんは部屋に入ってきた。一緒に練習をしようとも言わず、座っている俺を一瞥すると隣に腰掛けた。そして近くにあった雑誌を手に取り読み始めた。それから綱海さんは俺がいないみたいに、ずっとそうしている。
俺は綱海さんをチラチラと見てしまう。俺はどう綱海さんに話かければいいのかわからなかった。だって意図が見えない。俺はただ無駄な時間を過ごしていた。
そうして、綱海さんは溜め息をついた。

「練習しなくていいのかよ」

そんなことを言う。自分もしてないくせに。

「綱海さんこそ」

なんだかお互い牽制しているみたいだ、と思った。
いつも元気な綱海さんらしくない。それから何も言おうとしない綱海さんに俺は口を開く。

「綱海さん…あの、」

一緒に練習しますか?そういうつもりだった。でも綱海さんは眉をひそめて、怪訝な顔をしたからやめた。綱海さんはそれを望んでないと思った。
綱海さんは俺から目を背けるとゆっくりと俺の方に体を傾けた。
俺は急にそんなことをされたから、びっくりして体をずらそうとする。

「動くなよ」

そんな俺を感じとったのか、綱海さんはそう言った。
綱海さんの方を向いてしまうと綱海さんの顔が近すぎる。俺は本当に身動きができない。
しばらくすると俺のドキドキも収まってきて、たまにはこうやって静かに過ごすのもいいかなと思い始めていた。

「雨の日はあんまり調子よくねーんだ」

綱海さんは目を瞑って呟く。

「髪も、体調もなんかさ」

綱海さんがさっきあんな顔をしたのは、俺がしゃべることを遮りたかったのかもしれない。そう少し思ったから、俺は静かに綱海さんの言葉を聞いていた。
綱海さんはずっとこうしたかったのかな。自惚れなのかもしれない。でもあの溜め息の理由を、俺のそんなによくない頭はそういうことにしたがる。
いつもの綱海さんならしたいことはしたい、と言うはずだ。いつになく遠回りをしているのも雨のせいなのだろうか。
ふと思ったのは、こんなに大人しい綱海さんを知っているのは俺だけだったらいいのにということだった。俺はそれを伝えたくて、綱海さんの方に体を寄せる。綱海さんはそれを肯定するように、動かない。俺は目を閉じた。そうすると感じるのは、肩にある綱海さんの体の暖かさと雨の音だけだった。さっきまでは眠たくなんてなかったのに、うとうとしてしまう。雨がやまないようにと祈りながら俺は眠りについた。






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