稲妻11 | ナノ

必死で八の字になっている立向居の困り眉毛があんまり可愛いから

「みかんいらねぇか?」
「あ、下さい」

綱海さんはこたつの上に置かれていたみかんを手にとり、俺の前に置いた。なんで俺は綱海さんの部屋なんかにいるんだろう。綱海さんには告白だって断られたもののきちんとしたし、俺が気持ちを知らないはずがない。それなのにお気に入りの後輩なんだよ、なんてことを言うから俺は何も言えなかった。綱海さんにとっては自分に対して好意をもっている相手と、友達に差はない。接し方は変わらない。告白する前と態度が変わらないなんて綱海さんはひどいことをする。呼ばれて綱海さんの部屋に来てしまう俺も俺なんだけど。

「なぁ、立向居」
「なんですか?」

俺はみかんを口に運ぶ手を止め、綱海さんを見る。

「俺のことまだ好きか?」

綱海さんは天気の話をするみたいな口調でそんなことを聞いた。

「な、なんでそんなこと」
「ちょっと聞いてみたかっただけだけどよ」

綱海さんの表情からは俺は何も読み取れない。

「俺は…」

本当は好きだ。そんなこと綱海さんだってわかっているはずだ。それをあえて言わせようとするのは何故なのか、俺には全くわからない。
今でも好きでいるのは綱海さんの迷惑なんじゃないかとか、何度も告白なんてしたらしつこいと思われないかとか、そんなことをずっと考えていた。綱海さんを好きでいることに罪悪感を感じていた。綱海さんに聞かれても本当の事を言えばいいのか、どうなのかわからなくて困ってしまう。
綱海さんには情けない顔を見せているんだろう。かっこ悪い。こんな俺が綱海さんのことを好きなんて言っても頷いてもらえる筈がなかったんだ。俺はそうやってどんどん自己嫌悪に陥っていく。

「俺は…」

それからどう言葉を続けるか悩んでいた。俯いて自分の手先を見つめるばかりで、うまいかわし方はないものかとずっと考えていた。
だから気付かなかった。綱海さんの気配に。
俺のみかんに添えた手に、綱海さんの手が重ねられた。それに驚いて顔を上げる前に、額に柔らかい感触を感じる。頬に綱海さんの髪が触れて、自分が何をされているのかわかっても目を開けられなかった。いや本当は開けたかった。でもそれはしてはいけないような気がした。
綱海さんが俺から離れるのがわかって、俺はようやく目を開けた。目の前には笑顔の綱海さんがいた。

「つ、綱海さん…?なんで…」
「嫌だったのか?」
「そんなこと、ないですけど」

額とは言えキスをされたことは嬉しくない訳ない。ただ綱海さんの行動の意味が俺には全くわからない。好きかと聞いたと思えば、キスをしたり。でもキスをされたということは嫌われてはいないと思ってもいいのだろうか。寧ろ好かれていると思ってもいいのだろうか。

「もう一度、してください」

自分でも大胆なことを言ったものだと思う。でもそれでもしないと俺と綱海さんはいつまで経っても近付けないと思うから。
綱海さんは身を乗り出して、俺に近付く。目を瞑ろうとした時、綱海さんは人差し指で俺の額を小突いた。

「調子に乗んじゃねぇぞ」
「何でですか…」
「下心見え見えじゃねぇか」

そう言って綱海さんは、俺の手からみかんを奪って口に入れた。




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