稲妻11 | ナノ

痛み

綱海さんに告白をした。答えはノー。でも綱海さんはお前と友達のままいたい、と言った。綱海さんは酷い。俺にとってそれがどれだけつらい事なのか知らないんだ。綱海さんのいつもの優しさは今の俺には痛い。俺はただの優しさとして受け止められないから。皆に優しいと知ってても、俺はまだ期待してしまう。綱海さんはこういう人でだれにでも優しいとわかってるって、そう自分では思ってた。でも本当はわかっているフリをしているだけで、俺はまだ綱海さんの優しさが嬉しかった。俺の恋は好きな人の一度くらいの断りの言葉では終わらせられない。それを綱海さんはわかってない。




「っ…痛」

突き指だろう。綱海さんのことを考えてぼーっとしていたから、普段しないようなミスをした。指がジンジンと痛む。

「どうした?」

かけられた声に俺は耳を塞ぎたかった。顔を上げると、綱海さんが心配そうな顔で俺を見ていた。

「綱海さん…」
「突き指か?」
「大丈夫です」
「大丈夫かわかんねーだろ」

綱海さんは俺に近寄り、手を取る。なんで寄りによってこの人が気付くんだ。最悪だ。

「とにかく、冷やしに行くぞ」

俺の返事も聞かず強引に俺の手を引いていく。綱海さんはまだ俺に優しい。でも触れないでほしい。今の俺には綱海さんのそんな優しさなんて押し付けないでほしい。突き指の痛みなんかよりずっと、心が痛いこと知ってほしい。
俺は俯いて綱海さんに掴まれた手を見ることができなかった。





水場についても、俺達は特に話すことがなく無言だった。やっぱり俺達は友達のままではいられないじゃないか。

「綱海さん、」

やっと絞り出した声は掠れていた。

「もう、俺に優しくしないでください」
「…怪我してるやつほっとけるかよ」

綱海さんは当然のことのように言った。俺に優しくしないでくださいってそれは俺の願いなのに、この人はそんなこと聞かない。綱海さんは、綱海さんのことを好きで苦しい思いをしている人にも優しい。それで俺が傷ついていることは知らないから。皆に優しい、そういう所も全部俺はすごく好きだった。そう綱海さんは思ってる。でも俺は今も好きだ。だから苦しくて、ずっと避けてたのに。綱海さんの優しさは優しさなんかじゃない。友達のままいようなんて、俺の綱海さんのことが好きだという気持ちも、告白したという事実も全て否定してる。俺は綱海さん以外を好きになることなんて考えられない。それくらい綱海さんを好きでいるのに、綱海さんは見ないフリをしているんだ。
俺達は何も喋らず、ただ手を冷やしているだけ。綱海さんの手は俺より冷たくなっていた。今の俺には、そんな綱海さんを気遣う勇気もなかった。




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