…ですか?立向居の言うことに集中していなかったから最後の疑問符あたりしか聞こえなかった。立向居のせいでリフティングを何回やったのか忘れてしまった。思い出すのも面倒で足を止める。ボールは俺から離れていった。立向居の方に顔を向けると俺の顔を見つめて言葉を待っているようだった。
「なんか聞いたか?」
「はい。塔子さんのこと好きですか?って」
はあ?という言葉を飲み込む。なんでそんなことを急に聞くのか。別に冗談で言っている訳じゃないんだろう。目が真剣だから。俺はどういう意図でいきなりこんなことを聞くのかわからない。
「好きだよ」
「えっ」
立向居はあからさまに驚いたような顔をする。そんなに大げさに驚くようなことなのか。嫌いな訳ないだろ。
「好きか嫌いかでいったら好きに決まってるだろ」
立向居は正に苦虫を噛み潰したような顔で俺の言葉を聞いている。思ったことをそんなにそのまま顔に出していいのか。生きていけないぞ、と思ったことを口にするのは止めた。こいつと一緒になってしまう。
「どれくらいですか」
どれくらいと聞かれても困る。手を広げてこれくらい、と言うべきなのか?と考えていると立向居はしびれを切らしたのか、
「俺よりですか!」
と質問を重ねてきた。そういうことか。塔子を好きな気持ちと立向居を好きな気持ちは違うもんだ。でもそれを説明しようとしたところで立向居は満足するんだろうか。立向居はすねたようにボールを見つめて俺の顔を見ない。
「お前より好きとか、好きじゃないとかそんなんじゃねーんだ。塔子は友達として好きだ。でもお前は…」
「俺は…?」
こういう時だけ顔上げやがって。今度は俺がボールを見つめる番だった。これからは言葉が出てこなかった。壮大な愛の告白になってしまいそうだ。
「これ以上俺に言わせる気か!それくらい察しろよ!」
俺は思わず立向居の髪に手をやって、くしゃくしゃと乱していた。照れ隠しだってバレバレなんだろうな。恥ずかしい。と立向居のボサボサになった髪を見ながら思う。そんな俺の腕を立向居はつかんだ。
「じゃあ、両手を広げて俺への愛を表現してみて下さい」
「…嫌だ」
それも駄目なんですか、と立向居は口を尖らせた。でもすぐにニヤリと笑う。
「俺は両手だけじゃ表現できません」
「そうか」
「それ以前に綱海さんへの愛は測れない」
「…そうか」
完全にこいつのペースだった。嫌な予感しかしない。話題を変えたくてしょうがない。俺と立向居の関係は立向居が俺に合わせているように見えて、本当は立向居の方が何枚も上手で俺は年上の威厳もへったくれもない。それでも俺がそういう位置に甘んじているのは立向居のことが好きだからだ。それが絶対にしないだろう俺の愛の告白だよ。