好きだ、って言ったらあの人はなんて顔するかな。からかうなって怒るだろうか。それとも顔を赤くして、ちゃんと答えてくれるのだろうか。そうやって俺が考えるどんなあの人もかわいくて、やっぱり俺はあの人が好きでたまらないんだと思う。
最初は自分だけの思いでよかった。あの人の近くにいて、練習を一緒にして、先輩後輩として仲良くして。でも次第にそれがつらくなった。この気持ちを伝えたい、あの人に好きっていってもらいたい、そう思うようになった。だから、告白しようと決心した。それなのにそれから俺はずっと告白できてない。好きだって何度言おうとしてもできなかった。喉まで出かかった言葉は、絶対に形にはならない。
大切だから、踏み切れない。大切だから、あの人の気持ちを大事にしたい。自分の気持ちはどうでもいいって、でもそれは告白できないで悩んでる間に俺が考えた言い訳だろうか。あの人に告白するのが怖いのは俺だってことちゃんとわかってるんだ。
「綱海さん…好き」
何度も言った言葉を呟く。何もない場所に向かって言っても、なんの意味もない言葉だ。あの人を前にすると途端に言えなくなってしまう言葉だ。
綱海さんは俺のことをどう思っているんだろう。それだけでもわかったら、俺は次に進めそうな気がする。でもそれすら聞くのが怖かった。
明日は言えるだろうか。そうやって考えるのも何度目なんだろう。
俺は今日は絶対好きだと伝える、そう思って朝を迎えて、綱海さんを目の前にしてまだ言おうか言うまいか悩む。綱海さんはそんな俺にこう言うんだ。
「どうした、立向居。練習するぞ」
そう言われたら俺はもう、好きだって伝える機会を今日も無くす。
「はい!綱海さん!」
俺だけに綱海さんが声をかけてくれたのがうれしくて、俺はもうそれだけで満足してしまう。今思いを伝えたら綱海さんはもう俺に優しくしてくれないかもしれない。そう考えたらやっぱり俺は怖くなって、思いなんて伝えなくていいって、そう思う。
綱海さんのことになるとどうしようもなくネガティブになってしまって俺はダメだった。全部綱海さんが好きだからなんだけど。