稲妻11 | ナノ

扱い易くてかわいい人なんです

返信不要。メール内容を確認してスクロールしていった先にこれだ。ちゃんと読んだメールの内容なんて吹っ飛ぶ。最後になんか書いてるとか思ったらこんなことか。お休みなさい、とかまた明日、だとかオブラートに包んだ言い方はできないのかよ。
携帯を壁に投げつけたい衝動に駆られて、携帯を握る。しかし俺の理性は珍しく正しく働いて、手前にあったクッションに携帯は着地した。立向居のせいで携帯壊れたなんて親には言えないから。

「返信するつもりなんて最初っからねーよ!」

独り言なんて言ってる俺はかなりイラついていた。こんな、たった四文字の漢字に。返信不要ってなんだ。なめてんのか。抗議してやりたいが、ここで返信してしまうと返信不要を無視することになる。それは癪だ。だからといって、返信しないのも立向居に大人しく従っているようで癪だ。しかし、ここで何も言わなかったらこの件は俺がイライラするだけで終わってしまう。大体なんで俺が立向居の都合に合わせないといけないんだよ。返信してやる。返信不要なんて無視だ。怒ってるのを立向居にわかりやすくするために絵文字も顔文字も入れずに送ってやろう。
『返信不要ってどういうことだ』と打つ。冷たい感じがよく出ていると思う。これで送信。俺はやりきったように清々しい気分でベッドに寝転ぶ。立向居はなんて返してくるんだろうな。






あれから10分ほど経つが、立向居からメールは返ってこない。俺は時間が経てば経つほど送ったことを後悔していた。返すつもりはないと自分で言っていたのに返信してしまった。送る時には送ることしか考えていなかったから、後悔するかもしれないなんてみじんも思わなかった。携帯を開いたり閉じたりして、そんなに返信が待ち遠しいのか俺は。恥ずかしくなって携帯を側に置く。
返しにくい内容で送ってしまった。立向居は悩んでいるんだろうか。少し罪悪感を感じる。いや立向居があんなメールを寄越すからで、俺は全く悪くない。
そんなことを考えていると携帯が鳴った。携帯を開くと、立向居からで俺は少し安心する。しかし問題は内容だ。『綱海さんメール嫌いですよね?』それだけ。悪びれもせずに送ってきやがった。メールが嫌いなのは本当だ。長文になりそうだと面倒くさいからと相手の都合も考えずに電話してしまって、怒られたりする程度に。それにしても、返信不要はないだろ。
俺は立向居の電話番号を着信履歴から呼び出し、発信ボタンを押す。別に傷付いた訳じゃない。これから俺以外のやつに返信不要なんてメールを送りつけたりしたら、相手は不快な思いをするっていうことを立向居に教えてやらないといけから電話をするんだ。
呼び出し音が忌々しい。しかしそれは少しの時間だった。すぐに立向居のもしもしという声が聞こえる。

「てめー!」

電話での第一声としては最悪な部類に入る。もしもしと言う前に言わなかっただけマシだ。

『絶対電話してくると思ってました』

電話の向こうの立向居は笑っていた。俺は呆気にとられて、言いたかったことを言い出せなかった。電話してくると思ってた?最近こいつは俺のことをちゃんと年上として敬っているのかよくわからない。前は俺を慕う可愛らしい後輩だったのに。でもそういうのを咎めるのは、上下関係を気にしない俺らしくない。

『すみません』

立向居はなんだかうれしそうにそう言う。うれしそうに謝るなよと俺がぼんやり思っているうちに、立向居は綱海さんから電話してほしかったんですとか返信不要なんて送るのは心が痛んだんですけどとか聞いてもいないことをペラペラ話す。最後に綱海さんの通話料が気になるのでまたかけ直しますと言って立向居は電話を切った。長電話する気満々である。こんなに気の利くやつが返信不要なんてなにも考えずに送ってくる訳ないよな。俺はなにやってんだろうな。熱くなって。立向居の方が何枚も上手だった。でも少し安心したんだ。俺とメールしたくなかったからとかじゃなくて、と考えてから一人で顔を赤くする。俺はそんなことで怒って電話したんじゃない。そんなことを言いつつも俺はまた携帯を開いたり閉じたりして、立向居からの着信を待っていた。




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